もう1つ、にくスタを分析するのに見ておくべきは「肉ブーム」の動向だろう。

ステーキ店を含む焼き肉業態が元気

ここ数年、ステーキ店を含む焼き肉業態が元気だ。前出の日本フードサービス協会の市場動向調査によると、ファミリーレストランの中でも特に焼き肉の前年比増加率が高く、全体を引っ張っている。

焼き肉業態では客単価こそ前年比100%を下回る月が多くみられるものの、売上高や客数は前年比100%を優に上回っている。最近よく耳にする「高齢者こそ肉食のススメ」ではないが、焼き肉業態は家族連れの来店も多いのではないだろうか。

景気がなかなか上向かないなかで、近年は総菜など調理済商品を購入して自宅で食べる「中食」が流行っていると言われている。総務省の家計調査でも消費支出は増加していない。

あくまで推論だが、焼き肉は自宅における再現性が低いので、外食の数値が高くなるのではないだろうか。肉を購入して家で焼くことを想定すれば、確かに家でも再現は可能である。しかしながら、炭火を使って高温で焼き上げること、ある程度の煙が出ることを覚悟すること、有機野菜を含む15種類のサラダを用意することなどを考えると、にくスタを自宅で再現することはかなり困難だといえよう。なおかつ家で焼き肉をした後の食器や調理具の洗浄も大変な作業である。以上のことから、手間と価格と味わいを計算すれば「焼き肉」は外食に限る、と考える人が多くなるのではないだろうか。

高齢者だけでなく、成長期にある子供たちにも良質なタンパク質の摂取が求められる。栄養面だけでなく、楽しいことも子供たちの興味の1つ。にくスタには子供たちが大好きなドリンクバーが設置されている。大人にはアルコール類をそろえたドリンクバーもある。

おとなのドリンクバーにはワインも用意

ファミリーレストランには、居酒屋では見られない「子供たち」という目線が必要になる。居酒屋選びでは「安さ」が基準の1つになるが、子供たちは「安さ」は気にしない。なぜなら、お金を支払うのは自分たちではないからだ。

既存業態とは違う客層

にくスタは、今までの店舗形態と大きく客層が異なっている。ランチの時間帯は近隣の会社員と主婦層が半分ずつ、夕方からは近隣に住む母親層が多く来店するという。居酒屋業態では年末年始の宴会需要が大きいが、ファミリーレストランはそうでもない。

ステーキやハンバーグでは1人1オーダーが定番だが、にくスタでは少人数で多くのメニューを味わってもらうスタイルの提案にも注力する。例えば、単品メニューを組み合わせて数名で楽しんでもらうとか、一皿の塊肉を複数名でシェアして楽しんでもらうなど、今までとは異なるスタイルで新しい価値を感じてほしいという。

複数人でシェアできるメニューもそろっている

新業態で失った収益を取り戻せるか

居酒屋という自分たちが得意とする業態から、ファミリーレストランという新たな業態に船出したワタミ。介護事業が生み出していた収益は、2015年度の営業利益で約7億円という規模だったが、新業態をビジネスの新たな柱に育てあげ、失った利益を取り戻すことができるかどうかに注目だ。ファミリーレストランの“ちょい飲み”や「吉野家」の“吉呑み”など、業態を超えた顧客の争奪戦が繰り広げられている中で、ワタミは同社の資源や優位性を効果的に発揮できる領域を確実に攻めていく必要がある。選択肢が増えるという目線で見れば、消費者としては好ましいことでもある。

また、肉スタはまだ1店舗であるが、ここでファミリーレストランとしてのオペレーションなどじっくりと学び、今後の展開にいかして行きたいと馬越氏は熱く語る。

特色ある居酒屋として、順調にファンを増やしている「炉ばたや銀政」など、ワタミの挑戦はまだまだ過渡期だが成果も出てきている。「安い」だけではない、客を引き付ける価値を持つ店舗が出てくるかどうか、次なる挑戦も楽しみである。