FCVのグローバルスタンダードに?

「FCVは、サスティナブルなモビリティ社会に貢献する究極のエコカーとして高いポテンシャルがある」とはホンダ首脳の言である。

そもそも水素社会実現の意義とは、石油への依存度を軽減することと、エネルギー・セキュリティー(安全)を向上させることにある。多様な一次エネルギーで製造可能な水素を二次エネルギーとして貯蔵し、必要に応じて電気に変えてエネルギー源を支えることで、水素社会の実現を目指そうというものだ。「Well to Wheel」(井戸から車輪まで)の概念でいくと、製造段階からCO2をゼロにできるのは水素エネルギーである。

GMは燃料電池関連の特許総数において世界一を誇る。一方のホンダは特許総数で3位だが、世界で初めてFCVを市販化したということで、両社が知見を持ち寄って燃料電池システムの性能を進化させ、スケールメリットや共同購買によってリソースの効率化を図ることはグローバルスタンダードに近づくものでもある。

ホンダのFCV「クラリティ フューエルセル」

ビッグ3に復活したGMの底力とホンダの高い技術力の連携拡大

リーマンショックによる経営破綻を受けて米国政府が救済に動き、世界の自動車ビッグ3の座からは陥落したGMだったが、ここへきて一気に復活してきた。母国市場での回復に加え、中国ではVWとともにトップシェアを競い、グローバル1,000万台規模を確立することで世界のトップ自動車メーカーに返り咲き、世界ビッグ3の一角として再び地歩を固めつつある。

GMは、この燃料電池テクノロジーにおいても長い研究と開発投資を進め、自動車だけでなく、あらゆる産業で広く利用されるものとして米海軍や米陸軍との協力を深めている。米海軍とは燃料電池(FC)ドローン潜水艇を開発、陸軍とはFC軍用トラックのテストを行なっているという。

ホンダの米国進出は2輪車からで、1958年にアメリカ・ホンダ・モーターを設立。1977年に2輪車工場で進出を発表し、次いで1980年には日本車で最初の米国への生産進出を決めた。1982年にはオハイオ工場で4輪車生産を開始している。かつて、米国の厳しい排ガス規制「マスキー法」をホンダがCVCCエンジンでクリアしたことは米国でも高い評価を受けた。

「需要のあるところでつくる」というホンダの経営思想は米国で徹底しており、現在は米国内に5工場と日本車で最も進んだ現地生産体制を確立している。GMと燃料電池システムで現地合弁生産に踏み込んだのも、トランプ政権の要求に呼応し、GMと連携して米国での市民権をより高めようという狙いがあったのだろう。また、2016年12月にはグーグル系の米ウェイモと自動運転の共同研究の検討開始を発表している。

GMとの提携関係についてもFCVに限らず、環境技術全般への拡大から自動運転やコネクテッドカー関連の技術にまで広がる可能性がある。ホンダ孤立化といわれる日本国内とは異なる、同社の新たなグローバル戦略につながることにもなりそうだ。