業界再編の一因となった究極のエコカー
FCVは、水素と空気中の酸素の化学反応で生まれる電気で走るクルマだ。エンジンとガソリン燃料タンクの代わりに、燃料電池スタックと水素貯蔵タンクを搭載する。走行時にCO2を出さず、水を排出するだけなので「究極のエコカー」と呼ばれる。
1990年代末から2000年代初頭にかけて進んだ「自動車世界大再編」の動き。「環境対応」を大テーマとする自動車メーカー同士の合従連衡は、FCV実用化に向けての技術開発を巡るメーカー間の連携という側面もあった。
電動車ということでは電気自動車(EV)もFCVも同じ範疇だが、EVは充電に時間がかかり、1充電あたりの走行距離も短い。FCVは5分ほどで水素を満タンにでき、1充電あたりの走行距離も600~700キロメートルと利便性が高い。ただ、その普及に向けては、燃料電池システムのコストダウンと水素ステーションなどのインフラ整備が課題となっている。
「次世代エコカーの本命はEVか、FCVか」ということでは結論が出ておらず、世界の各国・地域で強まる環境規制を背景に、自動車大手メーカーの間では両面作戦で開発費や生産コストを抑えるための合従連衡が進んでいるのだ。
ホンダ・GMは今回、量産化へ燃料電池システムの合弁生産に踏み込んだが、トヨタは独BMWと2020年の実用化を目指し基本システムを共同開発し、水素ステーションの整備でも協力する提携関係にある。
また、EVのリーディングメーカーを自負するゴーン日産も、このFCVに関して米フォードと独ダイムラーとの共同開発で提携している。さらに、サトウキビなどの植物から作るバイオエタノールを使った燃料電池を開発し、商用版などに搭載する計画も発表している。
GMのFCV研究は1960年代から、ホンダはリーディング企業を自負
FCVに関しては、かつて米ビッグ3として、また世界のビッグワンとして世界の自動車産業をリードしていた旧体制のGMが1960年代から研究に着手した経緯がある。2000年代前半には、市場化テストに向けて「シボレー・エクイノックスFO燃料電池車」を製造している。
一方のホンダは、1980年代後半からFCVの開発を進め、2002年には限定リース販売だったが先代の「クラリティFCV」を世界に先駆けて投入している。2016年3月の「クラリティ フューエルセル」発表会でも、「ホンダはFCVのリーディングカンパニーの自負がある」と八郷社長は胸を張って会見に臨んでいる。
その両社が、FCVに関する技術・開発提携を発表したのが2013年7月。リーマンショックで経営破綻し、米国政府による救済から復活した新GMとホンダの提携だった。
今回、この提携が米国での基幹システム合弁生産に踏み込んだのは、GMのFCV普及への本気度を示すものであり、ホンダも世界のビッグ3に復活したGMとの連携を深めることで、FCV量産・量販の方向を明確に示したことになる。