ユーザーの反応を見るという役割も
こうした流れが日本にも伝わり、1960年代には東京モーターショーで国内メーカー各社がショーカーを展示するようになった。そういったクルマの中には、今見てもカッコイイと思えるスポーツカーが何台もある。高度経済成長時代を反映した、夢のクルマたちだった。
でも多くは、そのまま市販されることはなかった。すると一部のクルマ好きから、市販車に結び付かないショーカーには興味がないという声が出始めた。
そこでカーメーカーでは、将来的に市販の可能性があるクルマに関しては市販予定車という呼び名をつけて、ショーカーと区別することにした。またショーカーについても、市販車とまったく結び付きのないモデルは影を潜めるようになった。つまりフロントマスクやサイドのキャラクターラインなど、ボディやインテリアの一部に将来導入予定のデザイン要素を入れて、ユーザーの反応を見るようになったのだ。
ユーザーの反応が良ければ、市販車もその路線で送り出す。全体がそのまま現実になるわけではないけれど、一部のデザイン概念は市販車と共通している。よってコンセプトカーという言葉が使われるようになったようだ。
つまり先にコンセプトカーが開発されて、あとから市販車が作られるという順序が一般的なのだが、同時進行する場合もある。代表例が日産のコンパクトSUV「ジューク」だ。
ジュークがデビューする前年、つまり2009年のジュネーブモーターショーや東京モーターショーに、「カザーナ」というコンセプトカーが出展されている。実はこのカザーナ、ジュークをベースに前後フェンダーなどを盛って、よりインパクトのある形にしたものだ。このカザーナが好評だったことからジュークもその路線で市販し、ヒットにつなげたのである。
マツダ「靭」が体現したものとは
さらに個別の車種ではなく、ブランド全体の方向性を示したコンセプトカーも存在する。こちらの代表例は、マツダが2010年に発表し、翌年の東京モーターショーなどで公開した「靭(しなり)」だ。
当時マツダは、リーマンショックによる販売不振が経営に大きな影響を及ぼしていた。ここでマツダは守りに入らず、テクノロジーとデザインの両面で新しい思想を導入した。前者が「スカイアクティブ(SKYACTIV TECHNOLOGY)」、後者が「魂動(こどう)」だ。このうち、魂動の方向性を示すために作られたのが靭だった。
靭を公開するまでは、マツダの社内でも、この方向性で良いのかどうか迷っている人もいたという。しかし実際に展示してみると大好評。社内の風向きがガラッと変わり、魂動デザイン実現に向けて進んでいったそうだ。「アテンザ」が靭の市販版であることは説明するまでもないだろう。