前ページでは2016年12月時点でのボランティアに関する情報を確認したが、実際にボランティアはどのような経験ができるのだろうか。

ここからは、「東京2020オリンピック・パラリンピックボランティアを目指そう! EF特別セミナー」より、リオデジャネイロ2016大会 五輪ボランティアスタッフ(日-英 通訳サポート)の経験談を紹介する。

応募から現地入りまでの期間はオンライン学習などを実施

トークセッションに登壇したのは、リオ2016大会に通訳ボランティアとして参加した矢野寛子さん。彼女は、ボランティアに応募した動機を「Lifetime Experienceだと思ったから」と語った。

矢野さん「日本から非常に遠く離れたブラジルは、めったにいけるところではありません。せっかくの機会なので、ダメ元で応募してみることに。申し込みにはボランティア用のウェブサイトに個人情報、語学力、スポーツ経験、ボランティア経験など6ページぐらいに渡って入力する必要があって、途中でちょっと疲れました(笑)。でも、一生に一回しかないチャンスですし、母親が『出すだけタダなんだから出しなさい』と背中をグイグイ押してくれました」

ボランティアの採用通知は2015年2月。そして同年8月には組織委員会との面接やスポーツに関するディスカッション、様々な質問に答えるグループインタビューが行われた。

矢野さん「この時点ではシフトや仕事内容は伝えられておらず、何の音沙汰もありませんでした(笑)。ただ、その間もオンラインで英語やポルトガル語、オリンピックに関する専門用語、健康管理や安全対策のビデオ学習などを行いました。ブラジルの夏は非常に暑いので、健康管理についてもしっかり学べる内容でした。振り返ってみると、自分で勉強する期間が結構あったように思います」

大会期間中、どのようなタイムスケジュールで働くかというシフトは大会直前の2016年6月に決定。シフトは基本的に選べないそうなので、ボランティアを考えている人は注意が必要だ。

矢野さん「『この日は休みたい』という希望はできず、勝手にシフトが決められて送られてきます。オリンピックでは朝イチの試合もありますし、一番遅い競技は22時、23時ぐらいまで行われます。また、競技後も夜中の2時、3時まで仕事があることもありました。私の場合は会社の都合もあったので、どうしても行けない日だけは事前に連絡しました」

ブラジル入り後、最初にやったのは「ユニフォーム合わせ」

矢野さんがブラジルに入ったのは2016年8月。リオ2016大会は8月5日から21日までの17日間だ。日本の反対側であるブラジルはとにかく遠かったそうで、NY経由で乗り継ぎも含めて40時間。ほぼ2日かかる長旅だ。

矢野さん「機内ではあんまり寝られず着いたときにはフラフラでした。しかし、観光と違ってボランティアには休む間はありません。着いてすぐ(首からさげる)スタッフIDやボランティアのユニフォームを取りに行きます。みんなで行って、全身コーディネートしてもらうのです。ユニフォームを用意してくれるのも大会ボランティアの方々。ジャケット、半袖のシャツとズボン、靴下にスニーカー、キャップ、斜めがけのバッグ、水筒などが支給されます」

「帰りの荷物がパンパンになるくらい色々もらった」と語った矢野さん。ただし、支給されるのは基本的に物品のみ。企業から派遣されたボランティアなどを除き、リオ2016大会のボランティアは無報酬なだけでなく、食事や宿も自己調達が基本だったそう。

矢野さんの出会ったボランティアには、滞在費を抑えるためにほかのボランティアと短期間のルームシェアをした人もいたという。東京2020大会でも同様に宿などは自己調達となる可能性があるので、検討している人はその点も考慮しておいたほうが良さそうだ。

安全のため、スタッフも厳重なセキュリティチェックを受ける

ユニフォームを受け取ったらすぐボランティアの仕事にうつる。会場へは地下鉄などで移動したそう。海外の地下鉄というと少し危険なイメージもあるが、大会中はどうだったのだろうか?

矢野さん「リオの地下鉄は思っていたよりも安全できれいでした。でも、試合が終わると一気に人が移動し始めるので駅のホームの隙間がないくらい人があふれる、とんでもない混雑になります。電車は時間通り動いてはいるのですが、試合直後は乗れません。リオのことを思い出すと、東京2020大会がどうなるか怖いですね」

交通網と並んで心配されるのがセキュリティだ。各国から非常に多くの人が集まるオリンピックは、テロの標的になる可能性がある。治安問題もあったリオ2016大会では、非常に厳重なセキュリティ管理がなされていた。

矢野さん「オリンピックではセキュリティに非常に気を使うので、期間中はボランティア専用の出入ゲートで全身を厳しくチェックされます。配られているカバン以外は持ち歩けないですし、持ち物も厳しくチェックされます。(凶器となる可能性のある)傘もNGなので、雨が降ったらカッパを使うことしかできません」