総務省施策がNTTドコモに有利な方向へ
もう1つの好調要因となるのは、外的環境の変化である。先にも触れた通り、現在の携帯電話市場の競争環境を大きく変えているのは総務省だが、端末の実質0円販売を事実上禁止し、MVNOの競争力拡大に力を入れるという一連の総務省の施策は、必ずしもキャリアに対してマイナスに働いているわけではない。
特にキャリアにとっては、実質0円販売ができなくなったことで端末の割引額が減少し、それが現在は利益拡大へとつながっている。NTTドコモもその例外ではなく、前年同期との利益比較では、「端末販売関連収入」が715億円減少する一方、端末機器原価と代理店手数料の合計を示す「販売関連費用」が、前年同期に比べ292億円減少。結果として販売関連収支がマイナス280億円(前年と前々年同期の比較ではマイナス592億円)と、マイナスの幅が大きく減少している。
もっとも現在は、MVNOなど低価格サービス同士の争いが激化しており、総務省のガイドラインに抵触しない形でのキャッシュバック施策がなされるなど、販売競争も激しさを増してきている。だがNTTドコモは、ソフトバンクやKDDIのように自身、あるいは傘下企業が安価なサービスを提供するのではなく、外部のMVNOに回線を貸し出しているに過ぎない。それゆえ低価格帯の競争に関して、販売に係るコストを直接自社で支払う必要がないというのも、NTTドコモにとっては有利な点といえるだろう。
とはいえ、NTTドコモにとって今後大きな課題となるのは顧客の流出だ。特にNTTドコモのライバル企業が展開する低価格サービスは、NTTドコモのフィーチャーフォンユーザーにターゲットを定め、価格面で訴求することにより自身のサービスに乗り換えてもらうことを狙っている。
それゆえNTTドコモでは、フィーチャーフォンからスマートフォンへ乗り換えると、最大2年間基本使用料が半額になる「はじめてスマホ割」を展開。これが功を奏し、他キャリア系の低価格サービスへの流出を小規模に留めることができたという。またNTTドコモは今回の決算発表と同時に、5分間の通話がし放題となる「カケホーダイライト」を拡大し、データ定額サービスの中で最も低価格な「データSパック」でも利用可能にする新たな施策を発表。低価格ユーザーの繋ぎ止めを進めている。
NTTドコモは今後、割引や長期利用者優遇施策などユーザーの継続利用につなげる施策をさらに拡大する方針で、通年規模で1500億円の「お客様還元」を実施することも決算では明らかにしている。最も多くのユーザーを抱えるNTTドコモは、ユーザーの流出を減らすことこそが最大の攻撃になると捉えていることから、今後低価格サービス競争はMVNOに任せ、自身では売上の要となるユーザーを維持するよう、守り固めを徹底していくものと考えられそうだ。