ピーク時の電力を補完するEVの使い方

もう1つ、「エネルギー政策のシナリオ」で注目されるのは、電気自動車(EV)の大量普及による電力の平準化策だ。

EVを大胆に導入することにより、EVに搭載されるバッテリーの蓄電機能を活用し、停車中のEVからの電力を他へ回すことで、ピーク時の電力供給を補完しようとするものである。こうした検証は、日本国内でも日産自動車と傘下のフォーアールエナジー社によって実施されている。そして実証実験では、確実にピーク電力を下げる成果を得ている。

日産は電気自動車をピーク時の電力供給に使う実証実験を行っている(画像は日産自動車より)

これまでの中国市場における自動車普及段階においては、EVが一気に市場に増える可能性は見えにくかったかもしれない。だが、たとえば2016年12月半ば、北京の大気汚染に対し「赤色警報」が発令された。これは2015年12月以来のことで、粒子状物質のPM2.5の値が、日本の環境基準の10倍以上に達したことで出された。

大気汚染の原因は、保有台数が増えた自動車の影響もあるだろうが、北京の西部に多くの石炭火力発電所があるためでもある。また市民が使う石炭の暖房も関わっているという。そして、スモッグが滞留する要因として、北京は三方を山に囲まれ、大気が流動しにくい地理的条件もある。山脈によって大気が流動しにくい状況は、米国カリフォルニア州のロサンゼルスも同様だ。今日の自動車排ガス規制の発端が、カリフォルニア州で起きたことは周知のことである。

ベース電源とされている石炭火力が原子力発電に入れ替わっていけば、大気汚染は大きく改善されるはずだ。さらに、そこを走る自動車がEVになれば、大きな2つの要因が解決を見る。また、原子力発電による潤沢な電力が供給されれば、暖房も電化の道を選ぶことができる。

一足飛びのEV化も視野に入れるべき

現行の中国自動車市場を先進国側から見れば、電動化はまだ先で、先進国での進捗をみながら進むだろうと考えられがちだ。だが、すでに中国ではカリフォルニア州で実施されるZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)規制に相当する、NEV(ニュー・エネルギー・ヴィークル)規制を施行する動きとなっている。この規制に合致するのは、EV、プラグインハイブリッド(PHV)、燃料電池車(FCV)で、その内容はZEVと同じだ。そして2030年には、市場の40%に達する目標が立てられている。

この動きに歩調を合わせ、中国の比亜迪汽車(BYD)は、ギガファクトリーを建設し、リチウムイオンバッテリーの大量生産に乗り出す。

EV導入への動きはそのように急転直下で起きており、まさにそれは共産党の指導による統制経済だからこそ一気に先へ進ませることができるのである。

PHVで、まずはその場しのぎをするとしても、一足飛びのEV化を日本の自動車メーカーも意識していかなければ、米国はもちろん中国の市場からも取り残され、もともと市場での勢力を得られていない欧州を含め、日本車が世界に出遅れる事態となりかねない。

日本の自動車メーカーの中には、「この先まだまだハイブリッド車(HV)やPHVが市場の多くを占め、そこにはエンジンが存在する」との声が根強いが、世界最大の自動車市場の中国と米国が動けば、ほかの市場も動き、そこに消費者の意識転換が加わると、もはやエンジンへの郷愁は吹き飛ぶ可能性もあるのである。