CO2削減に舵を切った中国

そして私が注目しているのは、中国がCOP21を批准し、2030年までにGDPあたりのCO2排出量を、2005年に比べ60~65%削減するとしたことだ。経済成長が鈍化してGDP値が下がれば、排出量の削減幅は小さくなる目標であるとはいえ、それでも、COP3以降は開発途上国の立場として、先進国がCO2削減を行うべきとしてきた中国が、世界第2位の経済大国、かつ世界最大のCO2排出国となり、自らCO2削減に乗り出した意味は大きいと考える。

つまり、今は減速傾向にあるとはいえ、経済成長を持続させながら環境問題への対応も行う先進国の仲間入りをしようとする姿勢がうかがえるのである。

それをどう実現するかについては、再生可能エネルギーの導入を、2011年の22%から、2030年には53%、2050年には86%にまで引き上げると、国家発展改革委員会能源研究所と能源基金会による「エネルギー政策のシナリオ」にある。だが、再生エネルギーの導入で先進国といえるドイツでさえ、20数パーセントに達した現段階で、コストとの兼ね合いにあえいでいる。中国の思惑は、とても現実的な将来像とは思えない。

電力供給体制の構築がEV導入の追い風に?

一方、中国には現在19基の原子力発電所が稼働しており、さらに29基が建設中だ。合わせると48基となり、日本国内の43基を超える。さらに計画中とされる数は225基にものぼり、2050年には400基にするとの調査もあるとのことだ。この数字も、どこまで信頼を置いていいかはわからないが、再生可能エネルギーの導入に比べると、現実味のある話ではあると考える。

なぜならば、それら原子力発電所の形態として、既存の軽水炉にとらわれず、高速炉、高温ガス炉、トリウム溶融塩炉など、新たな原発技術も研究開発をしているというからである。

このうち、一例としてトリウム溶融塩炉について解説すると、トリウムとは元素の周期表でウラン、プロアクチニウムに次いで重い元素であり、核分裂を起こせる可能性を持っている。そして、このトリウムが、中国には山のようにあるのである。

その理由は、中国はレアアースの95%を世界に供給しており、このレアアースはトリウムの鉱山から掘り出している。そして、レアアースを採取したあとの不要なトリウムが廃棄物として山となっているというのである。トリウムはまた、ウラン同様に放射性物質であり、その処置に手が打てていない状況だ。

そのゴミの山が、トリウム溶融塩炉の実用化によって、経済成長を支える電力のエネルギー資源、つまり宝の山に変貌を遂げるのである。

電力供給体制が整えば、EVの普及には追い風になる(画像はBMWの電気自動車「i3」)

現在、中国科学院では、何百人もの科学技術者によって、2025年までに実証を行い、2035年の事業化へ向けて開発が進められている。この計画が順調に進めば、COP21で中国が目標に掲げたCO2削減の数値が、現実味を帯びてくるのではないだろうか。しかも、処理に困っていた廃棄物のトリウムの処分が同時進行で行える。当然ながら、石油を輸入に頼る中国にとって、自国内の資源を使っての電力供給が実現できることになる。

以上の様な原子力発電への傾倒は、中国に次ぐ人口を抱えるインドも同様だ。日印による原子力協定も、そうした流れの1つといえる。巨大な人口を抱える国では、高密度なエネルギー源が、国の成長と経済の発展に不可欠だからである。