ライバルに対する強みはどこに?

Zinraiは昨年の発表以来、すでに300件を超える問い合わせを集めており、すでにコールセンターや金融関連の窓口業務支援、あるいは翻訳、AIロボティクスといった分野での導入事例も登場しているという。Zinraiを使った産官学が連携しての研究開発もスタートしているとのことで、スタートダッシュは後発の割に悪くはない。とはいえ、AI開発は今やIT業界でも最も競争の激しい分野といってよく、IBMやグーグルといった世界規模の巨人から、設立間もないベンチャーまで、無数のライバルがひしめいている。並み居るライバルたちに対して富士通ならではの強みといえるものはどこにあるのだろうか。

Zinrai自体はすでに導入事例が複数あり、いくつかの分野では成果物となって商品化されているものもある。後発のサービスながら実績は着実に積み上がっている

まず第一に考えられるのは、国内でのシステム開発の実績とコネクションだ。既存のシステムが富士通製であれば、そこにAIを組み合わせたいという相談も受けやすく、担当者から開発チームまでが国内にいるため、海外の企業と比べるとレスポンスも早くなることが期待できる。深いところまで日本語で相談できるというのも安心感につながるだろう。開発力のない企業にも手厚いコンサルティングやサポートを提供できるのは富士通ならではの強みになりうる。

また、ハードウェアの開発技術があるところも、他社に対するアドバンテージのひとつと言っていいだろう。富士通はZinrai用のサーバーに完全液浸冷却技術を導入したり、スーパーコンピュータ「京」の開発で培ったノウハウを活用し、消費電力あたりの性能でGPUを大幅に上回る性能を叩き出すディープラーニング専用のAIプロセッサ「DLU」を発表している。AI専用プロセッサの開発はグーグルなども行なってはいるが、富士通が得意とする省電力設計は、大規模なサーバーファームなどに導入する際には大きなアドバンテージになる。Zinraiはクラウドだけでなくオンプレミスでの展開も可能だが、これもハードウェアまで設計・製造できる富士通の強みのひとつだ。

特殊な水に完全に水没させることで冷却効率を大幅に向上させている。熱対策が重要な課題になるサーバーファームでの電力消費を大幅に減少する意味でも貴重な技術だ

現在はGPUによるディープラーニングの高速化が主流だが、ソフトウェアや並列処理の最適化を進めることで、さらに消費電力あたりの性能を向上させられるAIプロセッサも開発中。CPUまで設計・製造できる富士通の強みといえるだろう