下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)
大脳の下、眉間の奥あたりに位置し、副腎皮質刺激ホルモンや甲状腺刺激ホルモンなどのさまざまなホルモンを分泌する下垂体と呼ばれる部位にできる腫瘍。ほぼすべてが良性で比較的女性に多い。ホルモンを過剰に分泌する(ホルモン産生腺腫)タイプとホルモンを全く分泌しないタイプ(非機能性腺腫)がある。
「ホルモン産生腺腫だと、成長ホルモンが過剰に分泌されて身長が非常に大きくなる『巨人症』が有名ですね。これは骨端線(骨の成長に関与する軟骨層)が閉じるまでの症状で、閉じた後だと体の末端に成長ホルモンが作用して手足が太くなります」。
具体的には「今まではいていた靴や、身につけていた指輪のサイズが合わなくなる」「骨や唇が厚くなる」「舌が大きくなり、寝るときによくいびきをかく(睡眠時無呼吸症候群)」などの変化がみられると、成長ホルモンに関する下垂体腺腫が疑われる。また、副腎皮質刺激ホルモンが多く分泌されると急激な体重増加や血圧が高くなるといった症状が現れるほか、下垂体腺腫によって視神経が圧迫されたために視界が狭くなるという症状も出てくる。
このように下垂体腺腫はさまざまな影響を身体に及ぼすため、一見して眼科や内科分野と思われる症状の裏にも、脳腫瘍が潜んでいる可能性があると知っておいてほしい。
神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
末梢神経を構成する「シュワン細胞」と呼ばれる細胞から生じた腫瘍。基本的に良性であるため、腫瘍の成長は遅い。小児よりも成人にみられ、その中でも特に中年女性に多い。
「最も多いのは前庭神経鞘腫と呼ばれる聴神経から発生するケースです」と福島医師は解説。「最近、耳が聞こえづらい」と耳鼻科を受診しても、難聴を加齢のせいにされてしまう人は少なくないが、実はこの脳腫瘍が原因の症例もあるという。
神経鞘腫が難聴の原因の場合、腫瘍が大きくなると周辺に平衡感覚を司る小脳があるため、ふらつきや頭痛といった付随症状も伴うようになるため、これらの症状が腫瘍発見のサインとなりうる。
ちょっとした症状でも変化に注意
国立がん研究センター 希少がんセンターによると、国内における年間の脳腫瘍発生頻度は約2万人(脳腫瘍全国統計2001-2004のデータに基づく)で、最も予後が悪い膠芽腫の患者は毎年約2,000人発生しているという。決して多くない数字かもしれないが、上述の4つ以外にも脳腫瘍の種類は存在するため、それに伴って現れる症状は膨大だ。
それだけに「物が見えづらくなった」「顔つきがちょっと変わった」というちょっとした変化でも、その症状が進行してくるようだったらきちんと医療機関を受診してほしい。
記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)
日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。