昨年12月に発売された新型プリウスで、トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)に基づくプラットフォームが実用化に移された。TNGAは豊田章夫社長が推進する“もっといいクルマづくり”のための基本概念だ。このTNGAが、パワートレーンにも適用される。今回トヨタ自動車が催した“パワートレーン技術説明会”では、何が語られ、そこから何が見えてきたのか。

電動化に関する説明会かと思いきや…

トヨタ自動車は今年11月17日に、「EV開発を担う社内ベンチャーを発足する」と発表した。電気自動車(EV)の開発にあたって、小さな組織で従来と全く異なる仕事の進め方をすることにより、商品の早期投入を目指すというのである。

それから間もなくの12月6日、今回のパワートレーン技術説明会が催された。ここまでの経緯から、電動化へ向けたさらなる強化の内容であるかと想像したが、中心となったのは、新ガソリンエンジンの効率向上と、新多段変速機(トランスミッション)、そして新エンジンをいかすハイブリッドシステムの説明であった。

画像は「もっといいクルマづくり」の基本概念「TNGA」に基づき刷新されたプラットフォーム(車台)。車台がクルマの骨格だとすれば、駆動装置の集合体であるパワートレーンは心臓部にあたる部分だ

社内ベンチャー発足によるEVの即戦力化は、米国カリフォルニア州で2018年から強化されるZEV規制への対応が差し迫ったことへの対処であろう。2018年には、新車販売の4.5%をEVなど排出ガスゼロ(ゼロエミッション)の車種にしなければならない。従来、ここにハイブリッド車も組み入れることが認められてきたが、2018年からはEV、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)しか勘定に入れられなくなる。なおかつ、規制の比率は毎年増強され、2024年には19.5%に達し、5台に1台はZEVにしなければならなくなる。

既存エンジンの低燃費化も喫緊の課題

これまでトヨタは、究極のエコカーはFCVであり、また低燃費のハイブリッド車を普及させることが気候変動への効果を上げ、一方EVについては、コミューターなど限定的な利用になるとのすみ分けを前提としてきた。だが、FCVの普及は水素ステーションの整備に時間を要して見通せず、ハイブリッド車はZEVの勘定に入れられなくなり、それらに対して、限定的と考えてきたEVの本格的な商品化が待ったなしとなったのである。今回の説明会でも、電動化へ向けた開発者を約30%増強すると述べられた。

同時に、トヨタは世界一の自動車メーカーとして、世界各地で新車販売を行っている。トヨタの決算発表によると、2015年度における同社の連結販売台数は868万1,000台で、ダイハツ工業と日野自動車を含めたグループ総販売台数は1,009万4,000台に達する。連結販売台数のうち、海外での販売は662万2,000台で割合は76%。海外販売のうち283.9万台は北米向けで、次に多いのがアジア向けの134.5万台となっている。

北米のZEV規制対策は急務だが、アジアを含め、それ以外の地域では、まだEVの強制的な導入は起きていない。そうした市場へはエンジン車やハイブリッド車での販売促進が求められることになる。とはいえ、気候変動に対応した高効率で燃料消費の少ない、すなわちCO2排出量のより少ない動力源の投入は不可欠であり、今回の技術説明会となったのであろう。