外部の感性を取り入れて再認識したプリウスの特性
文学を取り入れたプロモーションに、村山由佳さん(試乗小説)と原田マハさん(試乗エッセイ)の2人の作家を起用したのは、齋藤氏が読書家であったことも影響したという。しかし誰にお願いするかを決めるのは難しく、周囲のスタッフと相談しながら絞り込んでいった。
企画の趣旨を考えれば、運転免許を持っていて、日常的にドライブを楽しんでいる方が前提となる。さらに人気作家ともなれば多忙なので、限られたスケジュールの中で対応してもらえることも条件になった。
「多くの人にプリウスに乗ってもらいたいという企画なので、まずはお2人にプリウスを運転してもらい、作家さんの感性で、エッセイや小説にまとめてもらう手法を取りました。興味深かったのは、他のジャンルの方を含めて、静かでスムーズという感想が多かったことです」。
現行プリウスの静かさや滑らかさは、単にハイブリッドカーだから実現できているというわけではない。TNGAの採用によるボディ剛性向上も効いている。こういった特性が現行プリウスのメッセージになると齋藤氏は思ったそうだ。
水カンがイメージチェンジに適任!?
一方、ミュージシャンとして起用したのは「水曜日のカンパネラ」だった。初めてその名を目にした読者もいるだろう。サブカル的な香りがする彼女たちのチョイスは、スタッフの提案によるもの。プロモーションの方向性に合っていたので、齋藤氏の中ではほぼ即決だったという。
これまでのプリウスは優等生的であり、学級委員的な存在だったかもしれないと回想する齋藤氏。しかし今度のプリウスは違う。その違いをアピールするとともに、トヨタの販売店に行ったことがない人を引き付けたいという思いに、水曜日のカンパネラは適役だと感じたそうだ。
「とはいえ社内で水曜日のカンパネラを知らない人もいたので、実現するまでは少し大変でした。特に自分より年上の人には認知度が低かったようです。でも『今までは選ばなかったから』という思考ではなく、プリウスの新しい魅力を今までにない切り口で訴求するチャンスだと思い、あの手この手で説明し、納得してもらいました」。
プリウスと松尾芭蕉、共通点は“侘び寂び”
水曜日のカンパネラが、プリウスに試乗して楽曲とミュージックビデオ(MV)を制作した今回のプロモーション。パフォーマンスを担当するコムアイさんがリアシートに座り、プロデューサーのケンモチヒデフミさんが運転するというスタイルで製作は進んだ。静かな車内から、“侘び寂び”というテーマを思いついたというケンモチさんが作った曲が「松尾芭蕉」。タイトルを聞いたときは齋藤氏も驚いたそうだが、同時に、水曜日のカンパネラの世界観の中で、プリウスがどのように表現されるのかと期待も膨らんだという。作家とは違うシーンの切り取り方や、「ダブルウィッシュボーン式サスペンション」などの自動車用語を歌詞に取り入れた点も印象的だったそうだ。
ただ、ミュージシャンをクルマのプロモーションに起用した例はこれまでもいくつかある。その点で画期的だったのは、ガムやコーヒーとのコラボレーションだろう。こちらはどういう発想から生まれたのだろうか。