人間の兆寿命化もやってくる?
カーツワイル氏は、コンピュータの発展でデータの解析速度も指数関数的に高まっていることが、人間の生活においても様々な分野でイノベーションを生み出していることを指摘する。健康や医療の分野においても、DNAシーケンスやゲノム解析が進んで、遺伝子を組み替えて疾病に対処することも可能になった。心臓発作を起こした患者が、普通に歩けるまでに回復することは、昔は夢物語だったが、今では可能になっている。
このようなイノベーションはここ10年程度で起きたことであり、今後はさらに短いスパンで次々に革新的なイノベーションが登場していく。それに従って、人類の寿命も飛躍的に伸びることが予想できるというわけだ。カーツワイル氏によれば、次の寿命レベルのジャンプは2035年ごろに来るという。
こうしたイノベーションは、人間の超寿命化だけにとどまらない。同氏は、人間と人工知能の融合についての可能性についても言及しているのだ。
人類はクラウドにつながり不老不死に?
ナノテクノロジーが進むと血液細胞レベルのサイズのデバイス(ナノボット)が人体の中で機能するようになる。このナノボットを介して、インターネット上にある人工知能の大脳新皮質にアクセスし、人間の大脳新皮質を拡張できるようになるというのだ。カーツワイル氏はこれを「第二の脳」と呼び、自分自身の脳(=第一の脳)と、クラウド上の第二の脳がつながることで脳のバックアップも取れるようになるという。
コンピュータが大脳新皮質をシミュレートできるようになれば、人間の感情などもシミュレートできるようになる。そして脳のバックアップが取れるということは、その人の人格などもバックアップされることになる。つまりバックアップが存在し続ける限り、その人物は不滅になったのも同様ということだ。不老不死化はおよそ2050年ごろには到達するという。
まるで「攻殻機動隊」などのSF作品のような話だが、カーツワイル氏は本気で不老長寿の実現を目指している一人。余談だが、不老長寿実現のためには消化器に負担をかけないよう栄養剤を飲んだり、毎日数本の注射をすることも厭わないが、生身のメンテナンスは面倒なので機械の体が欲しい、というような人物なのだ。閑話休題。
いずれにしても人類の意識がネットと融合するようになれば、意識レベルにおいて時間や距離は問題にならなくなるだろう。VR空間を使ったチャットルームなどを介して、世界中の人間がクリーンで美しい理想的な空間を共有してコミュニケーションを取れるようになる。昼夜も意味をなさなくなるかもしれない。人間の社会生活そのものが根底から変わらざるをえないようになるだろう。