西武秩父駅に人を呼び込む仕掛け

このように、秩父だけを取り出しても、様々な取り組みを西武鉄道は進めてきた。しかし、これらをみるとターゲットや季節が限られたものとなる。輸送人口を底上げを図るには、コアなターゲットに向けたものだけではなく、幅広い年齢層に訴求できる魅力を提供することが必要だろう。旅の魅力は"体感"だ。観る、味わう、触れる。秩父に人を呼び込むには、幅広い年齢層に訴えられる"体感"が必要になる。そこで注目したいのが西武秩父駅構内の改築である。

西武秩父駅は9月現在、秩父仲見世通り全体を改装中

西武鉄道は登山、サイクリングなどのレジャー目的のお客、地元住民の利用を想定しているが、ターゲットを絞らずに、幅広い年齢層に訴求できるのが温泉だ

西武鉄道は、駅構内の秩父仲見世通り全体を改装し、2017年4月に複合型温泉施設をオープンさせる。複合型温泉施設は、飲食、イベントエリア、物販エリアも備え、源泉かけ流しの温泉施設を開く予定だ。敷地面積は約6363㎡、延べ床面積は3983㎡。飲食・イベントエリアが約736㎡、物販が約466㎡となり、メインの温泉エリアは延床面積の約半分(約2170㎡)となる。

同施設の開設の目的について、西武鉄道はプレスリリース上で「秩父地域観光および秩父温泉のブランド向上を図るために、また、地元の方々にも愛され、日常的にご利用いただきたいという思いを込めて実施するもの」としているが、温泉施設には、もう少し深い意味があるように思われる。

西武鉄道にないもの

考えれば、東武鉄道や小田急電鉄にはあって西武鉄道にないものが温泉だ。日光付近には鬼怒川温泉があり、箱根は箱根湯元がある。いずれも駅近くに温泉街があり、入浴してから電車で帰れる。駅併設の温泉施設といえば、最近では、京王電鉄の京王高尾駅にできた「京王高尾山温泉 極楽湯」があり、人気も上々のようだ。

しかし、秩父には温泉のイメージはない。正しくは秩父にも温泉はあるが、鬼怒川や箱根湯元のように温泉街がなく、温泉地のイメージが薄いのは秩父に点在していることが原因だろう。

温泉は秩父がこれまでアピールしきれなかったものと言えそうだ。幅広い年齢層に訴求できる体験型コンテンツであり、秩父への旅の満足度を上げる締めのワンピースとなる可能性がある。そう考えると、この複合型温泉施設の期待値は高い。旅の締めくくりとして、旅の魅力となる"体感"を提供でき、お客の満足度が高まればリピート客も増え、それが輸送人員の底上げにつながる、そんなストーリーが描けそうだ。温泉施設の開業とともに、秩父のイメージがどう変わるのか、そして、西武鉄道にどういった効果をもたらすのか。秩父をキーワードにした西武鉄道の新たな挑戦はこれからが勝負どころになりそうだ。