「隣のマンションに住むおじさんが、店のオープン前に入ってくるのですよ。こちらも『どうぞ』ってお迎えします。下町ならではの光景ですよね」。そう笑うのは、バルニバービ営業開発部の藤井菜央さんだ。

バルニバービの藤井菜央さん

ただ、この地元密着の光景が日常となるには、「豊年萬福」同様、長い道のりを要した。 「『ボン花火』の近くにMIRRORビルという複合商業施設を5年前にオープンしました。当時の蔵前は、個人経営のレストランなどはあるものの、大きめの商業施設がなく、騒音や匂いの問題もあり、近所からご指摘を受けることもありました。でもスタッフ自ら地元の方に挨拶に行ったり、周辺の掃除をしたり。そういう地道にコミュニケーションを続けた結果、祭りの神輿を担ぐまでの関係になりました」(藤井さん)。

MIRRORビルでのノウハウを参考に、2015年「ボン花火」をオープン。その翌年、元々12席あったテラス席を広げ“かわてらす”の社会実験を段階的に展開してきた。

最初のハードルとなったのは、河川敷地占用許可の申請書類の作成。

「何十種類もの書類を提出しましたね。加えて近隣の約30世帯と企業を一軒一軒まわり、署名をもらいました」(藤井さん)。

店の周りにはマンション、企業なども

住民の賛同を得るためのルールとして、「夜午後7時以降の予約は4人以上で取らない」「ビル側から見ても河川側から見ても景観を損なわないよう、植栽をたくさん置く」といった取り組みを実践する同店。

植栽をおいて、周辺住民の生活に配慮

その後、テレビや雑誌などに取り上げられたことによりテラス席を希望する客が増え、かわてらす開始から1カ月ほどしか経過していないが、すでにランチタイムの売上げは2倍になった。

そんな同店だが、課題は「冬のテラス運営」だという。

「屋根もなく吹きさらしなので当然寒くなりますよね。だからといって、テラス席を使わないと風化してしまう。なので、冬の間はこたつ席に変えることも検討しています。実際、当社が経営する両国テラスでは、秋冬の間は“こたつガーデン”となり、『鍋プラン』を用意しています。これも店舗デザインすべてを社内で手がけている強み。一年を通してテラスの楽しみ方を提案していければ」(藤井さん)。

冬のテラス席活用は、実験期間2年の間で減価償却できるかどうかにも大きく関わってくる。

「現時点で減価償却できるかは正直分かりません。ただ水辺の賑わいはお金にかえられないもの。冬のテラス運営は近々の課題ですが、今後は屋形船をおりた後に『ボン花火』で食事をしてもらうなど、“かわてらす”を使った様々な施策を考えていきたいです」(藤井さん)。

ここ数年、御徒町、浅草橋と合わせて若いクリエイターが集まる“モノマチ”として注目を集める蔵前。“かわてらす”の盛り上がりは、若者の下町人気をさらに加速させる一助となるか。