「日本橋の一帯は昔から地元に根付いた人たちが多いのです。だから“新参者”の私たちは、商店街の集まりに何度も顔を出し、地域に溶け込む努力を重ね、出店の折り合いをつけるのに、3年かかりました。社会実験参加の際にも話をしましたし、“かわてらす”の実験期間が終わってからも、地元の了解を得てから契約更新をしました。そこはやはり筋を通さないと」(星野さん)。
現在星野さんは、町内会の青年部に入り、地域の祭りにも積極的に参加している。午後10時以降はテラス席のBGMを止めるなど、近隣への配慮も忘れない。多大な努力と些細な気遣いの積み重ねにより、売上げは“かわてらす”参加前に比べ増加したという。
「客層はガラッと変わりました。これまでランチタイムはビジネスマンが多かったのですが、“かわてらす”参加後は観光客が目に見えて増加しました。特に、世界的な旅行ガイドブック『ロンリープラネット』に載ったこともあり、外国のお客様が目立ちます」と星野さん。
同店はさらに、日本橋の老舗の味を提供する“地産地消”にもこだわる。にんべんの鰹節や山本海苔店の海苔といった名店が立ち並ぶ日本橋。お品書きを見ると、「日本橋神茂さん」「日本橋鮒佐さん」……と店名が目立つように書かれ、隣に各店舗の食材を使ったメニューが並んでいる。品名よりもお店の名前が前面に出ているお品書きも珍しい。
「食材の一部は店内で買えるようにしています。あるようでなかった取り組みだと自負していますし、お客様に日本橋ブランドを知ってもらうことで、真の地域貢献ができていると思っています」(星野さん)と文化情報発信型飲食店と名乗る理由がこれでわかる。
地産地消というコンセプト。そして“かわてらす”参加で日本橋界隈における異端の存在となった「豊年萬福」。地域活性化に貢献し、客も増加。問題はないように思えるが、クリアしたい課題も残っていると星野さんは言う。
「気になるのはやはり首都高の圧迫感。現在 “日本橋再生計画”という再開発が進行中で、首都高の橋桁を地下に移すかどうかが話し合われています。それと、日本橋川は他の河川に比べ流れが遅い。そのため、川の透明度も悪いのです。もう少し綺麗になるといいかなと」(星野さん)。
今後、日本橋川が“かわてらす”で埋め尽くされるには、日本橋エリアの再開発の行方にかかっている。
2:若者増加の蔵前 課題は冬季の運営
初めての社会実験となった「豊年萬福」から2年。2016年7月から“かわてらす”に参加したのが、バルニバービが運営する食堂&呑み「ボン花火」。
最寄り駅は蔵前駅で、少し歩けば観光地・浅草という好立地。2階のテラス席に通されると、目の前に川幅の広い隅田川が広がる。遊歩道も整備され、川向こうにはスカイツリーが一望できるなど、ロケーションは最高だ。
バルニバービは、レストラン企画や運営を手がける会社で、地域の特性にあわせ、1店舗1店舗それぞれ違った個性を持つ店作りを得意としている。
どの場所に出店するかは、同社の佐藤裕久社長の「この場所に人が集まる様子が想像できる」という直感からはじまるのだという。“地域に溶け込む”店作りを自負している同社とあって、地域との境目となるテラスを活用した店舗が多いそうだが、それも佐藤社長がフランス・パリのセーヌ河沿いのカフェで水面の魅力に目覚めたからなのだという。