通信と移動の普遍性とサンフランシスコ特有の事情

ライドシェアサービスは前述の通り、スマートフォンの普及と街の有休資源の増加(不況)がもたらしたサービスだ。スマートフォン自体は通信であり、ライドシェアは人の移動。この2つの要素は、おそらく将来にわたって、人間が活動する限りなくならないだろう。

人の移動はこれまで、道路や鉄道、バス網など、巨大なプロジェクトによって成立してきた。そして、これらは規制産業でもある。交通と通信の融合なんていう生ぬるい話も、確固たる規制の上に成り立っているにすぎない。そのため、これまで相対的に新興産業である通信が主体的に何かを進めることはできなかった。

ライドシェアは、そうした規制のかかった"交通"にメスを入れた突破口であり、通信側、テック業界からは、今後も大切に育まれて行くことになるだろう。

また、UberやLyftは、サンフランシスコ周辺に限らず、米国の各都市が直面してきた「移動の不確実性」という問題の解決に取り組んでいるサービスだ。いうなれば、シリコンバレーの投資家、起業家、エンジニアにとっての「自分ごと」だった。

東京からベイエリアに移り住むと、平日はかろうじて、休日になるとまったく役に立たなくなるボロボロの公共交通機関に愕然とすることになる。そして、流しのタクシーは見つからず、電話で呼んでもちゃんとこないのが普通のことだ。東京やニューヨークのような交通機関とタクシーが潤沢な地域から始めることはできなかっただろう。

通信と移動の普遍性が生む様々な可能性

テック企業のライドシェアサービスへの投資についてまとめると、モバイルによって実現する象徴的なサービスであること、規制産業にテック企業が関与できる突破口であること、そしてサンフランシスコ・シリコンバレーを含むベイエリア地域の人々にとって「交通の解決」が切実な問題であること、という側面を見出すことができる。

ただし、交通の解決については、不十分であることを、当のグーグルもつい最近経験済みだ。前述の開発者会議Google I/O 16は、これまでのサンフランシスコ市内から、グーグルキャンパスの向かいにある屋外劇場に会場が移されて開催された。

グーグルはUberのライドシェアサービス「Uber Pool」の割引コードを配って、サンフランシスコ市内やホテルとの間の交通手段にしようとしたが、数千人が一度に移動する規模のイベントに、周辺道路が大渋滞を引き起こし、またUberの台数も足りておらず、正直なところ、厳しい結果となった。改善の余地は大いにあるのだ。

とはいえ、人の移動に可能性を見出し、その実現を手助けする仕組みは、人の行動に直接的に情報や広告を与えたり、広告の効果測定を人の行動まで含めて行えるようになる。その点はグーグルにとって、非常にメリットが大きいはずだ。