2015年に三省堂が発表した「今年の新語 2015」の対象は「じわる」だった。意味は「はじめは印象に残らなかったが、だんだん感情が芽生えてくるさま」といったところだろうか。
新語として選ばれてしまえば、日本語変換や予測変換の候補に追加しやすいが、この言葉が使われ始めてすぐに候補に挙げるには、ユーザーの辞書登録の情報を参照することが早道だ。
また絵文字変換についても、「ピザ」を「🍕」(ピザの絵文字)に変換するのは簡単だが、「困った」を「🌀」(台風の絵文字)に変換するには、そうした使われ方をユーザーから学ばなければならない。こうした例は、Appleが、モバイルで使われる言語が生きているという認識でいることを感じさせる。
こうした学習には、個人を特定するよりは、大多数のユーザーの動向をつかむほうが向いているかもしれない。そこでも、Appleは単なる辞書や入力データを取得するはずであり、ユーザーのプロファイルに関連する地理や世代的な情報とのひも付けは行わない可能性が高い。
すると、学習内容にロスも生まれる。関東に住んでいる人が使わない、九州なりの絵文字表現もあるかもしれないし、高校生が理解できる絵文字の意味合いを、上の世代に持ち込んでも機能しないことが考えられるからだ。
そうした意味で、プロファイルを取った上での解析と比較すると、緩やかでより一般的な学習が進むことが考えられる。これが、我々ユーザーにどのような結果をもたらすのか。あるいは、その学習結果は意識しないで1年を過ごす可能性すらあると思うのだ。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura