同プロジェクトは今年10月にニューヨークとサンフランシスコでの開催を予定している新酒発表会イベントを対象に、クラウドファンディングで運営される。現在同イベントを支援するパトロン(支援者)を募集中だ。
同社のWebサイトから支援コースを購入すれば、アメリカでのイベント参加者に日本酒を振る舞うことができる。パトロン1人の支援につき1杯、これに同社が1杯をプラスし、計2杯をおごれるという仕組みだ。これはアメリカでいま流行している「マッチングギフト」のスタイルを採用した。マッチングギフトは、企業や団体が主催者となって寄付を募り、寄せられた寄付金と同じ額を主催者側もプラスすることで、計2倍の寄付を行うものだ。
目標は200万円
最近では熊本地震などの災害に対してもマッチングギフトによる支援が行われている。 支援コースは最小1,000円から。「今回は金額を低めに設定していますので、学生の方でも気軽に参加していただけます」と古原さん。3,900円以上のコースなら、パトロンにも特典として「KAKEYA」や「NOTO」といった同社が手掛ける純米・無濾過生原酒が額に応じて贈られる。8月3日までの期間に、200万円を集めるのが目標という。
彼らが考える「おごる」という感覚は、たとえばアメリカ映画によく出てくるワンシーンを思い浮かべるとイメージしやすいだろう。バーのカウンターで、身なりのいい紳士がカクテルを楽しんでいる。ふと見ると、カウンターの端にひとりの美女。紳士はバーテンダーにひと言告げる。
「これと同じものを、あの美しい女性にも1杯」。そこから会話が始まり、ストーリーがつながっていく……。
「映画のようにナンパするわけではありませんが、“おごる”という行為はコミュニケーションのアイスブレーカー、つまりスタート地点になるものだと思います」と古原さんは言う。同プロジェクトは、そうして異国の地でコミュニケーションを生むことで、日本酒の良さを広めることを目指している。
アメリカの人たちにおごる日本酒は、手作りにこだわり大量生産はしない小さな蔵が造る「純米・無濾過生原酒」。同社共同代表の竹下正彦さんによれば、火入れ処理をしない無濾過生原酒は製造方法だけでなく管理方法も含めて、蔵の技術や実力、そして酒造りに臨む緊張感がもっとも明確に表れる指標なのだそうだ。
実際に同社では、竹下さんの実家である島根県雲南市掛合町の竹下本店で製造する「KAKEYA」、石川県鳳珠郡能登町の数馬酒造で造る「NOTO」という2つのブランドの無濾過生原酒を、すでに世に送り出している。
10月にアメリカのイベントで振る舞われるのも「KAKEYA」の無濾過生原酒だ。火入れをしない生原酒は、実は海外への輸送が難しい。当然、コストもかかる。日本で味わえる最良のおいしさをそのままアメリカに運ぶため、同社では冷蔵をはじめ最大限の配慮を行うが、こうした部分のコストにも支援が活かされる。
募集期間が残り1カ月強となった現時点で、約60人のパトロンが支援の声を上げている。インターネットで募集するクラウドファンディングの性格上、若い世代がメインターゲットになっており、現時点でも20代、30代からの支援が多くを占めているが、もちろん40代以上からの支援も待っている。
本物の日本酒のおいしさを海外に伝えたい! という想いは、同社のスタッフだけでなく、多くの日本酒ファンが秘めている気持ちでもある。とはいえ、一般個人が海外でそうした周知活動を行うのは限界がある。「海外に日本酒を広める手伝いなんて、自分にはできないよ」、最初からそう決めつけてしまう人は多いだろう。「その代わりになれたら」(古原さん)というのが今回のプロジェクトの大きな趣旨だ。プロジェクトに参加することで、あなたも“日本酒大使”になれるのである。
「1杯の支援に協力してくだされば、私たちが責任を持って、アメリカの方たちにあなたからの1杯と私たちからの1杯を無料で提供します。そして、実際のイベントの様子は映像に収録して、メディアでの露出も含め支援者の方にお届けしますので、日本にいながらにしてアメリカの方においしい日本酒をごちそうし、喜んでいる様を確認できますし、そこで生まれたコミュニケーションから日本酒の良さが海外で広がっていくのです」と古原さん。他人事ではなく、まさに自分事として、日本酒大使の役割と成果を実感できるようになっている。