本機には大きな隠し球がある。前半で少しだけ触れた、ワイヤレスステレオ・サラウンドへの対応だ。この機能は、6月以降に公開予定のファームウェアアップデートで実現される機能だが、プレス向けの説明会でひと足早く開発途上版を試す機会に恵まれたため、そのときの様子を紹介しておこう。
送信側の機材は、2.1ch再生に対応したサウンドバー「HT-NT5」。そこに2台のZR7を用意し、リアスピーカーとして利用するというわけだ。2台のうち1台がHT-NT5からリア左右の音声データを受信し、その信号をもう1台に分配するという流れで再生が進む。なお、通信方式やコーデックなど技術仕様の詳細は明かされていないが、遅延を抑えるための工夫が盛り込まれているとのことだ。
007シリーズ最新作『007 スペクター』のオープニングシーンを試聴したが、ひと言でいえば「立派にサラウンド」。建物が崩壊していくときの臨場感もさることながら、乱れ飛ぶヘリコプターにあわせ音が移動する様子がしっかりと再現されていた。高さ方向の再現性は、7.1chやDolby Atmos、DTS:Xといったシステムに及ばないものの、これは確かにリアルサラウンド、バーチャルとの格の違いを見せつけられた。「スペクター」に関して言えば、懸念していた遅延は気にならなかった。ソフトウェアが開発版ということもあり、再現性のさらなる向上も期待できそうだ。
とはいえ、リアスピーカーとして使うためには同じ製品を2台用意するしかなく、単純計算で出費は倍だ。送り出し側も、現時点ではHT-NT5とSTR-DN1070の2機種と選択肢は少ない。コストパフォーマンスだけで考えるのであれば、最初からサラウンドシステムを導入したほうが安上がりだろう(たとえばソニーの「HT-RT5」)。課題は多そうだが、ワイヤレス方式のリアスピーカーが普及すればサラウンド環境は身近なものになるはずで、AVファンとしてはエールを送らずにはいられない。ぜひ、この路線の継続を!