田中社長が挙げる2つの理由

それについて、KDDIの田中孝司社長は理由を2つ挙げる。ひとつは、単にスマホを持ちたいという人ばかりが来店するのではなく、顧客によってニーズが変化していることだ。

田中社長は「お客さんの声を本当に聞いて対応しているのかという大反省がある。会社を大きく変えていこうと。地道なところからかもしれないし、急にはいかないけれども、そのように会社を変えていきたい」と話す。さらに「対外的に宣言することで、会社全体が本気で改善に取り組もうという意識のあらわれ」などとコメントしている。

今回の取組みについて経営上の何らかの危機感のあらわれかという質問に対し、「お客さんの声を本当に聞いて対応しているのかという大反省がある」と回答した田中社長(写真中央)

田中社長の言うとおり、スマホを持つ人の意識が変化しているのは事実だろう。ただし、顧客満足や長期利用者の優遇については、携帯電話業界全体を見てもこれまであまり触れられなかった面がある。それが一転、そこを重視しはじめたのは、もうひとつの理由のほうが大きな影響を与えると見たほうがよさそうだ。

それは田中社長も指摘するタスクフォースの影響だ。タスクフォースの影響とは、総務省主導で進めてきた携帯料金値下げの議論とそれにともなった一連の措置のこと。最終的に、多額のキャッシュバックをつけて実質ゼロ円に近い形でのスマホの販売は禁止に、利用者の公平性の観点から、長期利用者に対する優遇策の策定も、大手携帯電話会社に求められることになった。

これらを踏まえて予測されるのは、大手携帯電話会社間での顧客流動の減少である。いままで、大手携帯電話会社は、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)利用者に、多額のキャッシュバックを付け、契約者を増加させることで、通信収益の増加を図ってきたが、これが事実上不可能となったわけだ。さらに、KDDIほか、ドコモ、ソフトバンクが長期利用者の優遇策を打ち出したことで、3社間での利用者の移動は減ると見込まれている。

ざっくり言えば、顧客が通信料金の安いMVNO(仮想移動体通信事業者)に流れても、入ってくることはなく、大手携帯電話会社は今いる顧客をがっちりホールドする必要性が著しく高まった。いままで以上に現在の契約者を大切にすることが必要になってきたのだ。