「生かされている」ということ
――長生きの秘けつは何ですか?
私たちは、自分の意志で生きてるんじゃなくて、生かされてるの。だから私は、無理に生きようとは思わない。今晩死んだっていいと思ってるから、お茶碗だって洗わないまま寝たりしないよ。お風呂に入ってるときは「このまま死んだら困るな」って思うけどね(笑)。
でも、死を考えるってすごくいいことよ。「memento mori(メメント・モリ)」って有名なラテン語の言葉があって、スペインの修道院では年中、挨拶のようにその言葉を交わすらしいの。「死を考えなさい」「死ぬことを覚えていなさい」って意味よね。
私も「恥ずかしくない死に方をしたいな」っていつも考えてる。こんなこと言ってても、いざ死ぬときはウーッて泣きわめくかもしれない。それは分からないよね。だから最期は、誰にも見ていてほしくないな。あなたも「メメント・モリ」って言葉、覚えておきなさいね。
――私は、自分や家族の死を想像するだけで怖いし、不安になります……。若い人はもちろん、それが60代でも70代でも、やりたいことがたくさんあって、「死にたくない」「死ぬのが怖い」って思う人も多いと思うんです。
だって欲望には限りがないもん。あれもやりたい、これもやりたいって。その中で大事なものを選んでいくの。でも、それが終わったら寿命だと思わなきゃ。
現代人はあまりにも無防備
――病気もそうですが、地震のような大きな災害があると、起こってから初めて気づかされることばかりで……。やっぱり不安でたまらなくなります。
どうして不安になんかなるの?
――先生は不安にはなりませんか?
私は、爆弾がアメアラレのように降ってくる中で過ごしてきたからね。今は戦争を経験した人が減ってるから私みたいに言える人が少ないけど、戦争は全然違うもん。火の粉が降ってくるでしょ? お水が飲みたいときも給水車なんかないよ! 水たまりをハンカチで濾(こ)して、煮沸して飲んでたよ。それに、おむすびなんて誰も持ってきてくれないから、食べられる野草は全部食べたの。フランス人はタンポポを食べるの知ってる? 糖尿病のお薬としても知られてる。でも苦いね(笑)。
あと、私たちは小さいときから、何となく身を守る術を教わってきてるの。今でも、ホテルに入ると必ず非常口の場所を探すもん。習慣的にね。エレベーターに乗るときも、男の人が1人しか乗っていなかったら絶対に乗らない。そしらぬ顔で、大勢の人が来るまで待つわ。そういう風に身を守る術が、子どものときから何となく身に付いているの。今の人は無防備でしょ? そして地震が起こったら「どこに逃げよう? どの机が一番丈夫か? 」って慌てちゃうのよね。
男女で役割が違う、でもそれでいい
――日本の若者について、どう思いますか?
根性がないよね。それと社会性がないでしょ。みんな自分のことだけ。あまり勉強もしないんじゃない? 勉強って楽しいのにね。
――医学生のとき、勉強は楽しかったですか?
そりゃそうよ、一番楽しい時期じゃない? 研究とか仕事とか本を読むっていうのは、人生で最高の幸せよ。医学生のころはエスカレーターに乗ってるようなもので、自然にお医者さんになっちゃった。試験に追われたけど、苦労はなかったよ。
ただ、結果がうまく出ないときはつらいよね。だから私、自分の学校(東京女子医専)だけじゃなくて、東京大学とか慶應義塾大学の研究室にもずいぶん通ったよ。実習の様子を見た教授に、「男子学生は緻密にやるけど、女子学生は大雑把(おおざっぱ)だ」って言われたわね。でもね、神様がそうしてらっしゃるの。だって赤ちゃんを産んだり、おっぱいをあげたりって女の人は大変な仕事をするのに、緻密じゃだめよ。大雑把じゃなくちゃ。それを「男女同権」なんて言って一緒にしようとするでしょ? 私はおかしいと思う。男と女では役割が違うもん。
――女性には生理があるので、仕事をするのも大変なときがありますよね。
私も医学生のころ、生理痛はすごくひどかった! 1日中教室でじっとしてると体が冷えるからね。やっぱり薬に頼りすぎずに、体を温める方法がいいと思うよ。お医者さんになってからは気が張っていたし、なんせ跳ね回ってたから、生理痛なんて気にならなかったな。
――今の若い女性は、生理痛が重かったり、逆に生理が止まったりする人も多いようです。
それは無理なダイエットをするからよ! 自然に逆らってるもん。私はダイエットをしたことがないの。お漬物のしっぽでも何でも感謝して食べてたからね。でも、梅木細(ほそ)子先生って呼ばれてたのよ(笑)。