買い替え周期がないこと、そしてiPhoneをはじめとするスマートフォンの発展によって、iPadはその勢いと役割を失いつつあった。そんな現状を打開する鍵が、新たな用途と役割の設定です。これを担うのが、2015年11月、2016年3月に発売されたiPad Proです。

12.9インチiPad Proと9.7インチiPad Pro

これまで同じ9.7インチに加えて、より大きい、MacBook Proに迫る大画面を実現する12.9インチのiPad Proは、ほとんどのパソコンよりも高い処理能力とグラフィックス性能を誇る「スーパーコンピュータ」とAppleが豪語しています。比較対象がスマートフォンであったから売れないわけで、その比較対象をパソコンへと変えようというアイディアです。 9.7インチのiPad Proを披露したプレゼンテーションの中で、現在使われている6億台のPCが、5年以上たった古いものである点を指摘しました。Appleは、iPad Proについて、パソコンの代替という新たな役割を与えようとしているのです。言い換えれば、その5億台を潜在的な需要だと明言したことになります。

そのためには、一体型のキーボードを用意しなければなりません。iPad ProにはSmart Connectorと呼ばれる専用端子が新たに追加され、カバー一体型のSmart Keyboardと設定なしで接続することができるようになりました。

また12.9インチのiPad Proは、グラフィックスやビデオ、サウンド編集を行うプロフェッショナル向けのツールとしての地位を狙っています。そこで用意したのが、鉛筆のように軽く、シャープなペン先で繊細なタッチを再現できるApple Pencil。グラフィックスのアーティストにとっては、これまでにない良好な書き心地を軽くて細いペンで実現し、その他の制作現場でも、ペンでの細かい操作を実現してくれます。

iPad Proは、PCの代替、そしてプロフェッショナル向けのツールという新たな役割を加えて、iPadの再生を目論んでいます。iPadは変わろうとしています。しかし、iPadの変化だけでは、おそらくiPadの販売は上向かないでしょう。もう一つのかけているピースは、我々、ユーザーの感覚の変化と気づきが必要であると考えています。

(続く)

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura