劇的な改善をもたらしたGPUコンピューティング

実際、ディープラーニングをGPUで行った場合、CPUを使うのに比べて数倍の高速化が可能となり、数カ月かかっていた学習フェーズの演算が数週間程度へと、劇的に短縮されるようになった。学習が速くなればディープラーニングそのもののアルゴリズムの改良も素早く行えるようになり、さらに効率的なアルゴリズムの開発が、ディープラーニングそのものの進化をさらに押し上げることにつながっている。

また、GPUは拡張ボードという形で1台のコンピュータに数台増設することが可能だ。このため、当初は拡張ボード1台で検証を始め、開発の進度に合わせて演算能力を拡張するのも容易に行える。コスト的な側面からもGPUコンピューティングは革命的な効果をもたらしたわけだ。

こうしたGPUコンピューティングの先端を行くのが、GPUメーカーである米NVIDIA社だ。同社はパソコン用のハイエンドゲーミングGPUでも有名だが、GPUコンピューティングの可能性を提唱し、開発環境「CUDA」を提供するなど、GPUコンピューティングでも重要な役割を果たしている。現実にディープラーニングのトップ企業はほとんどがNVIDIAのGPUコンピューティングボードを導入しており、人工知能の進化にNVIDIAは欠かせない存在となっているのだ。

IoTにもディープラーニングの恩恵を

GPUコンピューティングは高性能だが、高速なGPUは相応に消費電力も高く、IoTなど、小さなサイズの機器にもたらすのは非常に難しいとされていた。しかし、NVIDIAは最新の「Maxwell」世代のアーキテクチャで、GPUの大幅な省電力化に成功した。これにより、サーバー/ワークステーション向けの「Tesla」やデスクトップPC用の「Titan」といった大電流が利用できる環境向け製品だけでなく、自動運転車など自動車プラットフォーム用の「NVIDIA DRIVE PX」や、ロボット・IoTなど組み込み機器向けの開発・研究に向けた「Jetson TX1」が登場した。

「Jetson TX1」は15年前のスーパーコンピューターに匹敵する処理能力を持つという

Jetson TX1は、サイズはクレジットカード大とコンパクトだが、GPU全体の演算能力は1TFLOPS(1秒間に1兆回の浮動小数点演算が行える)に達する。さすがに現在のスーパーコンピュータ並みというほどではないが、このサイズとしては非常に高い数値だ。この性能なら、フルHD解像度で撮影された動画をリアルタイムに処理し、物体の認識を行うといった高度な処理が可能になる。さらに、これだけの高い性能を、10W前後という低消費電力で提供できる。これはバッテリーで動作する機器にも十分提供可能な数値だ。