スマートフォンのVRは良質な体験を提供できない?

HMDを用いた没入感のあるVRは、元々ゲームの分野で大きな注目を集めているものだ。フェイスブック傘下となったOculus VR社の「Oculus Rift」や、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「PlayStation VR」、そしてHTCの「HTC VIVE」などが、ゲームの分野で高い注目を集めているVR HMDの代表的存在といえるだろう。

これらのVR HMDが注力しているポイントは、高精細なCGを用いた臨場感のあるVR体験を、快適な形で提供することである。というのも、VR HMDは視界をディスプレイが完全に覆い、そこに映し出された世界がユーザーの視界のすべてとなる。それだけに、非常にリアルなVR体験を提供できるメリットがあるのは確かだが、一方でいくつかの問題も抱えることとなるのだ。

代表的な問題として挙げられるのが"VR酔い"と呼ばれるもの。VR HMDは実際の動きと、ディスプレイに映し出される映像の動きにずれがあると、脳が違和感を引き起こして乗り物酔いのような症状を起こしやすいのである。そうしたことから快適なVR体験を与えるには、VR HMDの動きを正確に、かつ細かく検出するセンサー技術と、それに合わせてグラフィックを素早く描画する性能が求められることから、高いハード性能が求められるわけだ。

HTCの「HTC VIVE」を体験しているところ。位置や傾きを細かく計測できる仕組みを備え、酔いを防止し滑らかな動きを実現するが、その分求められるハード性能も高い

だが、高いハード性能が必要なぶん、高額になりがちでありユーザー体験の幅が狭いのが、現在のVRの弱みにもなっている。実際、一般発売が決まっているOculus Riftは599ドル、日本では送料込みで94,600円となっているほか、HTC VIVEも799ドル、日本では112,000円と決して安いとはいえない額だ。

しかも、これらのVR HMDはパソコンに接続して初めて利用できる上、そのパソコンにも高い処理能力が求められるため、さらなる高額な投資が求められる。個人が容易に手を出せるものではないことが、理解できるのではないだろうか。

Oculus VRの「Oculus Rift」。Xbox Oneのコントローラーとリモコン「Oculus Remote」が付属し、599ドルという価格で販売されている

裏を返せば、そうした高い性能がなければ、仮想空間を用いた快適なVR体験を提供することはできないし、スマートフォンを用いたVR環境が、そこまでの性能を実現できているわけではない。実際、MWC会場でいくつかのHMDを用いてVRデモを試してみたが、性能やコンテンツ共に、Oculus RiftやHTC VIVEのVR体験とは大きく異なるものだと感じた。

良質なVR体験を提供するには高性能なハードが必要だが、現状のスマートフォンではそれが難しい。なのであれば、スマートフォンメーカー各社は性能の劣るVR環境で、一体何を提供しようとしているのだろうか。