就航開始3年で2機種を運用するリスク
A330に全席グリーンシートを搭載したスカイマークの非効率な座席仕様とは違うものの、通常仕様の2クラスだと300席にもなる2通路の中型機を就航3年後に導入し、シンガポール線に投入するという。どのようにA330の乗員を養成し、整備体制を構築し、機材・設備を手当てする資金を確保し、どうやって大量の座席を埋めるか。新規航空会社が就航開始3年で2機種、それも2通路の中型機を導入するとなると課題は山積みであり、クリアするのは並大抵のことでは難しい。
4年目の2019年以降の計画はさらに見通しが難しいだろう。台北からの以遠権を使ったネットワークはバニラが先行して構築することを表明しており、ホノルル線は「ANAがA380導入に踏み切ったわけ」に書いたように、ANAのA380導入で低イールドの体力勝負となる路線だ。米国西海岸に至っては、米国側のフィーダー(米国内各地への乗り継ぎ利便)が必須となるが、エアアジアブランドのLCCと米国FSC(フルサービスキャリア)がどのようなアライアンスを組めるのか、行く先は闇の中である。
いま事業計画を発表した真意とは
こうしてみてくると、不透明要素とリスクの多い中期計画をいま発表したことに疑問を感じる。強気・楽観的な見通しを出した後に後退を重ねることがあれば、企業IR上、問題になるからだ。約50年ぶりの国産飛行機として注目されているMRJですら、計画遅延を発表するごとに市場・顧客から「何か重大な不具合でもあるのか」という声も出ている。
筆者の見立ては次の3つだ。「壮大なビジョンを短期間に達成する絵を描くことで前経営陣との違いを強調」「エアアジア本体や他の株主・投資家からの資金調達」「夢のある会社というイメージを立てることで有能なスタッフの採用促進」である。
航空会社の事業計画が次々と発表されているこの時期、その中身を正しく理解することに加え、それをきちんと実行・実現できるためにどのような企業努力がなされているのか、これからなされていくのかを点検することが、エアラインの将来を読む基本である。
「短期間に複数の拠点を展開」「国内+国際、アウトバウンド+インバウンドという異なるマーケットを狙う」「中型機・長距離路線への展開」など、エアアジア・ジャパンの中期計画はLCC経営の王道を度外視した、極めてチャレンジングな要素が満載だ。エアアジア・ジャパンの1年後をしっかり見守っていきたいものである。
筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。