――それではアルバムの中身についてのお話を伺いましょう
大槻「今回のアルバムは特に良い曲が揃っていると思います。猪突猛進型の曲が少なく、最近の"特撮"の楽曲は成熟してきた感じがします。大人になったというか、大人な方向に向かっているという感じですね。それもまた子供の言い方ですけど(笑)。何となく、リスナーにもちょっと成熟を求めるようなサウンド。洋楽のアーティストによくあるじゃないですか。今回は、血沸き肉躍る感じばかりじゃなくて落ち着いているなって。中学生くらいで聴くと、それがすごい違和感なんだけど、大人になるとわかってくるみたいな。少年期から青年期前期くらいまでは、とにかくビートが速くて、重くて、歪んでいるのが好きなんですよ。そしてキーが高ければもっといい。僕もそうでしたもん。古い例えで言うと、ディープ・パープルの『Burn』とか『Highway Star』ね。常にそういったテイストを求めていたのが、大人になるとそればかりじゃないよさがわかってくるんですよ」
――ただキャッチーな曲ではなく、歌詞や曲の持つ深みがわかってくる感じですよね
大槻「この前デビッド・ボウイが亡くなったこともあって、車に乗っていると、デビッド・ボウイの曲がいろいろ流れてくる。そのときに感じたのは、アーティストって、若い時期は楽曲のポップさで勝負せざるをえないんですよ。それが成熟していくにつれて、サウンドの構築など、そういった方向で勝負しようとしはじめる。そうすると、自ずと楽曲の下世話な面白さが減っていく。"特撮"もそういう分岐路にあるような気がします。ただ、"特撮"の場合、ナッキーをはじめメロディメーカーがいるので、いくらサウンドとして成熟の方向に向かっていても、下世話な楽曲のポップさ、面白さ、わかりやすさは減っていないと思うんですよ。そういう意味では、本当に面白いバンドだし、良いバンドだなって思っています」
――大槻さん自身もそこを失ってはいけないポイントだと思っていらっしゃるのでしょうか?
大槻「僕は基本、どのバンドにいても、歌詞を書いて歌っているだけなので、わからないです(笑)。今回のアルバムの曲順も、僕が最初に考えたんですけど、みんなが変えちゃった。正直、首を傾げる部分もあるのですが、これについては"すかんち"のポンプさんが言った名言があるんですよ。僕が"すかんち"の曲順は誰が決めているのかって聞いたら、『たぶんROLLYやないか』って言うので、『この前のアルバムは意外な1曲目で始まったね』って言ったら、『ああ、まあでも慣れるやろ』って(笑)。たしかにそうなんですよ。アルバムを聴いたとき、何でこの曲順? っていうのがあるじゃないですか。でも慣れるんですよ。だから『ウインカー』も慣れるんだと思います。僕だったら、絶対に『ハザード』を最後にはしないんですけどね。慣れるだろうな」
――大槻さんの考える曲順はどんな感じなのでしょうか?
大槻「最初が『荒井田メルの上昇』。これは一緒です。『荒井田メルの上昇』から『愛のプリズン』にいって『音の中へ』。最後は、『ハザード』から『7人の妖』、『旅の理由』で終わる。でも、歌詞を書く人と曲を作る人ではまったく考え方が違う。やはり作詞者は詞の流れで考えるんですけど、楽器陣はまた違うから」
――楽器陣はやはり曲の流れになるんですかね
大槻「うーん、楽器陣の考えることはわからない。そこがいいところ。ライブのセットリストでも、メンバーに頼むと、これでどうやってライブやるの? みたいなことになるんですよ。唖然とするぐらい違ってくる。やはり、ボーカリストはMCを司るので、ここでこういってこうやったら曲に入りやすいとか、そういうことしか考えない。でも演奏する側は、この曲はダウンチューニングだから楽器を変えなきゃいけないとか、そういうことを考えちゃうんでしょうね。5曲続けてMC、2曲挟んでMCみたいな、何これ、バランスがおかしいでしょって思うことがよくありますね。でも、そこがいい」
――ライブのセットリストは基本的に大槻さんが考えるんですね
大槻「ただ"特撮"はそうじゃないんですよ。"特撮"の場合、楽器チェンジがものすごく多くて、すごく大変なので、逆にそれにあわせることが多いです。昔はすごく曲間のつなぎを気にしていて、ここでいってほしいときにメンバーが楽器を変えているのを見て、イライラすることもあったんですけど、最近はちょっと大人になって、待てるようになりました。これも大人になると洋楽がわかるというところにつながるんですけど、洋楽のアーティストってけっこうのんきに楽器を変えたりするんですよ。最近はそれがわかるようになってきた。焦ることはないんですよ」