2016年は日本のモバイル市場試練の年へ
今年3月にスペインのバルセロナで開催されたMobile World Congress (MWC)の内容を受けて簡単な所感をまとめたが、世界のスマートフォン市場全体がミッドレンジ帯を中心にシフトしつつある傾向が顕著になっている。これまで、AppleのiPhoneにしろSamsungのGalaxyにしろ、注目を浴びる端末のほとんどはハイエンドにあたるフラッグシップ端末だった。だが実際にはハイエンド購入が難しい、あるいは価格的に躊躇するというユーザー層が一定以上おり、ミッドレンジ以下の端末が台数ベースでは大きなシェアを握っている。Android OSのスマートフォン市場におけるシェアは8割超だといわれるが、この多くを支えているのは実際にはミッドレンジ以下の端末だ。
ここ数年、世界中でスマートフォンの販売が急増している。理由は中国をはじめとした新興国での需要増で、100ドルや200ドルといった安価な端末が次々と開発され、これら市場へと投入されている。中国も富裕層が増えてiPhoneを購入するユーザーも増えているが、一方でこれまでスマートフォンを持っていなかったようなユーザーは安価なミッドレンジ以下の端末の購入を始めるわけで、これが市場拡大につながっている。インドや東南アジアは人口も多く、地元メーカーのほか、中国メーカーが次々と進出して市場開拓を進めているのが最近の動きだ。
ハイエンド市場はAppleが事実上独占状態にある一方で、このように新興国での需要増でローエンドを中心とした価格帯の製品は競争が激化しており、スマートフォン市場トップのSamsungは現在ミッドレンジが主力市場になっているといわれる。これは全世界でほぼ同じ状況だろう。一方で日本国内に目を向けると、iPhoneを中心にハイエンド端末がスマートフォン市場をほぼ席巻しているなど、世界的に見ても特異な市場となっている。そもそもiPhoneシェアが5割近いという時点で市場構成が特殊なのだ。
これが崩れる兆候はすでに現れている。現在、総務省を中心にした有識者会議の中で携帯電話の利用料金に関する議論が行われており、携帯キャリアに対して「携帯料金の引き下げ」「過度なキャッシュバックの是正」「実質0円の見直し」などが提言されている。早ければ2016年春~夏ごろには実施されるとみられ、携帯キャリア各社は要望に沿った形で料金プランや各種施策を打ち出してくるだろう。これが意味しているのは、日本でのハイエンド偏重市場を支えていた多額の販売奨励金の支出が抑えられ、おそらくはiPhoneを含む国内メーカーのハイエンド端末の多くが大幅な販売数減に見舞われるということだ。来年登場するであろう「iPhone 7」はもとより、国内メーカー各社も販売減に備えて業界再編を進める形でラインナップが激減し、2016年後半の携帯電話市場は非常に寂しいものとなるかもしれない。
代わって台頭するとみられるのが、中国や台湾メーカーを中心としたミッドレンジ以下の比較的安価な端末群だ。前述のように「高額な端末を買ったほうがお得」という状況下で、携帯キャリアの販売網から少しずつ弾かれていったAppleと国内メーカー以外の端末群だが、現在ではSIMロックフリーと「格安SIM」といわれるMVNO型のサービスに活路を見出している。まだ市場としてはそれほど大きくないが、販売奨励金抑制後の端末販売を伸ばす手段として注目されることになるだろう。またこのトレンドを受け、日本の市場開拓に乗り出す未上陸の海外メーカーが参入を検討するようになるかもしれない。2016~2017年にかけて、ラインナップ減少や携帯ショップの閉店増加、さらに端末メーカーの顔ぶれの一新など、大きく動くとみられる日本の携帯市場を引き続き注視してほしい。