ニュージーランドで42.195kmを走る。正直、ただ苦しいだけなら遠路はるばるニュージーランドまで行かなくてもいいかもしれない。しかし、それ以上の魅力がここにあるからこそ、地元・ニュージーランドを含む39カ国もの人が、この日のために空を飛んでやってくるのだろう。そんな「クィーンズタウン国際マラソン」ではどんな体験が待っているのか、実際に走ってきた。
受付会場も国際的
クィーンズタウンはニュージーランドの南島に位置する国随一のリゾート地。このクィーンズタウンで行われるマラソンは、2014年に6,000人規模で初開催され、第2回となる2015年は11月21日に実施された。フルマラソンのほかハーフマラソン、10km、キッズレース(3km)が用意されており、特にフルマラソンはコースの約70%は未舗装の自然の中なので、「世界で最も美しいコース」などと紹介されることもある。
第2回開催の2015年は第1回開催から参加者を増やし、9,000人規模となった。一番エントリーが多かったのはハーフで約5,400人、続いてフルマラソンが約2,000人、10kmは約1,500人で、そのフルマラソンのひとりが筆者である。今回はニュージーランド政府観光局主催のプレスツアーを通じて参加した。
大会名に"国際"が入っているように、初開催の時から国際イベントを意識しており、2015年は全体の14%が海外からのエントリーとなっている。特に多いのはニュージーランドの隣・オーストラリアからの参加者だが、日本からも約100人の応募があったそうだ。大会の前日に行われた受付では会場に各国の国旗が掲げられており、「Welcomes the world.」と書かれた世界地図には参加者自身がシールを貼って"参加"するようになっていた。
さらに興味深いのがナンバープレートである。第2回大会ならではの取り組みとして、一人ひとりのプレートに名前やナンバー、出場種目、計測チップのほか、その参加者が属する国旗もデザインされていた。こうした手の込んだ仕掛けができるのも9,000人規模の大会であるからこそ、そして、ニュージーランドの人たちの"おもてなし"といったところだろう。個人的には"日本代表"にでもなったかのような気がしてきて、「明日は頑張らなくては」と気合が入った。
各種目のスタートは、街の中心地からクルマで約15分移動したところとなっている。事前の大会エントリー時にシャトルバスの申し込み(有料)もできるようになっているので、街の中心地内のホテルに泊まれば、大会当日はアクセスに悩むことなくレースに集中できる。
ランナーたちの装備も万全
大会当日、天気は良好。ただ、リマカーブルズ山脈など壮大なサザンアルプスに囲まれたクィーンズタウンは天気が変わりやすいようで、ぱらっとお天気雨が降ることも。フルマラソンのスタート地点は、ゴールドラッシュに沸いた1860年代の面影が今に残る街・アロータウンからとなる。
スタート会場では、応援に駆け付けた人と談笑している人やチームで記念撮影をする人、黙々とアップをする人とみんな過ごし方はそれぞれ。ただ、この頃のマラソン大会では仮装をして走る人も少なくないが、フルマラソンの部においては仮装した人をほとんど見かけなかった。その代わり、バックパックを背負った装備万端な人がいるなど、普段から走り慣れている人も多いように見受けられた。もっと大きな大会だとスタート30分前には整列しなければいけなかったりするが、スタート10分前などでもみんな割と自由である。
8時45分よりフルマラソンスタート。スタート地点からすでに、遠方に山脈が続くダイナミックな自然が広がっている。走り始めて1~2kmでアロータウンの中心地となり、朝食のコーヒーを片手に沿道から応援してくれる人や、オープン前の準備に忙しいショップスタッフを横目で見ながら先に進む。
鳥のさえずりに時々ロック
フルマラソンのコースは、まずアロータウンを出発し、アローリバーやレイクヘイズのそばを走り、旧ショットオーバーブリッジを渡って、カワラウリバーからレイクワカティプに合流する側を走り抜け、クィーンズタウンの中心地でゴールというもの。3km地点の最初のエイドステーションあたりから、コースは未舗装の大地に変わる。
海外のマラソンにもエイドステーションはあるものの、日本のように種類豊富に補給食をそろえていることはまれだ。この大会のフルマラソンにはエイドステーションが12カ所(スタートとゴール地点を含む)設けられていたが、提供されているのは水やスポーツドリンクのほか、スポンサーが提供しているグミ状の補給食だけなので、エナジーバーのようなものを携帯していると安心だろう。
未舗装と言えど、岩場のある急坂を"全身"で走るトレイルランのようなコースではなく、湖のほとりのジープロードや道の広い山道を行くようなコースなので、通常のランニングシューズでもOKだ。序盤は鳥がさえずる、おだやかな時間が流れる風景の中を走っていく。
しばらくするとロックミュージックが聞こえてきたので、音源を探していたらコースのすぐそばで演奏しているバンドを発見。アクセスしやすい街中ではなく、山の中で応援してくれていることにとても励まされた。と思っていたら、山の中にも関わらずグループや家族連れで応援してくれている人の姿は意外に多く、中にはお手製の応援プレートを手にしている人も。筆者のナンバープレートの国旗を見て、「ジャパン、ジャパン」と応援してくれるので、気分はすっかり"日本代表"だ。