2020年の東京オリンピック開催もあり、東京の観光施策が活性化している。若者カルチャーの街である渋谷は目指す姿は――。11月9日、一般財団法人 渋谷区観光協会により、渋谷区観光協会シンポジウム「劇場都市渋谷」が開催された。東京藝術大学大学院映像研究科教授 岡本美津子氏をコーディネーターとし、東急シアターオーブ、パルコ劇場、新国立劇場、アイア 2.5 シアタートーキョーといった渋谷区内の4つの劇場を代表した人物が登場。さらにライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」やミュージカル「刀剣乱舞」に出演する俳優・佐藤流司氏も登場し、「劇場都市・渋谷」を実現するために意見を交わしあった。
渋谷区観光協会 松井理事長からは「いま渋谷区を訪れる外国人観光客は非常に増えています。しかしながらその多くは、忠犬ハチ公やスクランブル交差点を目的としており、現観光のついでに寄る傾向があります。渋谷区観光協会では、渋谷区内で半日、1日を過ごしてもらえるような滞在型のコンテンツを観光資源としていかなければならないと考えています」とメッセージが。渋谷区内の劇場内で催される芝居、ミュージカル、コンサート、ダンスなどを中心とする「劇場都市渋谷」を実現し、渋谷区を活性化させることが目的だと示された。
観客はどう渋谷を楽しむのか
これを受けて「街と劇場との関わり」という視点で話にあがったのがパルコ劇場、東急シアターオーブなどの大型商業施設内にある劇場。パルコ エンタテインメント事業部劇場担当部長 佐藤玄氏によると、渋谷PARCOパート1の9階にあるパルコ劇場では、シャワー効果(上階の施設を盛り上げることで、店舗全体に客を行き渡らせる効果)はあまり見込んでいないものの、チケットの半券を持っていくとカフェやレストランが割引となるサービスを実施し、458名収容の劇場の1公演で20~30名ほどの利用者が出ているという。
また、東急文化村 シアターオーブ事業部部長 海野緑氏の語るところによれば、渋谷ヒカリエの11階から16階に位置する東急シアターオーブには、40近くのレストラン・カフェが存在しているが、公演にまつわる食べ物やドリンクを作ってもらうなど、コラボレーションを行っている。
漫画やアニメを原作にする「2.5次元ミュージカル」専用劇場であるアイア 2.5 シアターについてはどうか。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会代表理事 松田誠氏と佐藤流司氏から観客像が語られる。
松田「2.5次元のお客さんは、どうやらお客さんはテンションがあがっちゃって、カラオケボックスに直行するみたいです(笑)」
佐藤(流)「それでテニスの王子様の歌を歌うみたいな?」
松田「公園通りのメロンパンも食べたりとか、買い物をしたりとか、来るまでに街にいったりしているんじゃないかなと思います。劇場に来る前後も含めて、エンタテイメントとして楽しんでくれてる、イベントとして楽しんでくれている」
佐藤(流)「家を出て、家につくまでが観劇ですね」
劇場空間の演出が鍵に
実際に現在劇場を訪れている観客層に特徴はあるのだろうか。「ミュージカルはチケット代が1万2000円などしますので、女性で30~50代が多いです。ここ1~2年、ヒカリエの影響なのかもしれないですが、20~30代の女性が本当に増えました」と海野氏。
一方、公益財団法人 新国立劇場運営財団常務理事 中島豊氏は、劇場側が物語を提供することで、観客に訴えることができると話す。
中島「新国立劇場はオペラ、バレエ、演劇と3ジャンルありまして、一番高いのはオペラで、3万円近い金額になってきます。大手町・丸の内・有楽町あたりのOLさんを総称して"大丸有"と言いますが、一流企業につとめてらっしゃるアラサー女性の1カ月あたりの遊興費は平均で8万5~6千円となっているそうです。40代前後のサラリーマン男性は3万8,000円というデータを見ると、倍近い金額を使うということなんですね。まずこの層にアプローチするために、どういう物語をご提供できるか考えました」
実際に新国立劇場では「素晴らしいドレスを着てオペラデビューしませんか」という企画を立て、50人の募集をかけたという。青山のブティックで、コーディネーターのアドバイスによるドレスを選び、VIP待遇でオペラ『椿姫』を観劇、終演後にはオペラ歌手との交流もできるという企画でチケットはすぐに売り切れ、当日はドレスアップした女性たちの姿で劇場自体も華やかな空気に演出された。
たとえば50代、60代を対象にするとしても、「シニア向け」といった言葉ではそっぽを向かれてしまう。エクセレントな体験を提供する、観客がヒロインになれるような空間をどう作っていくかが求められると、示唆に富んだ事例が紹介された。