富野監督:ファーストガンダムを作った時に作った設定、つまり「ミノフスキー粒子」によって無線が使えない。無線が使えないことで、人型のロボットが格闘戦ができるという劇を作ったわけですね。ところが、なぜ「ミノフスキー粒子」を発明したかというと、工学や電気のことは一切関係ありませんでした。ただ「映画を作る」ということを考えた時に、地球の裏側にいるやつが科学技術を用いてその反対側にいるやつをやっつけるというのはドラマになりません。

ドラマを作るというのは、取っ組み合いができなくちゃならない。だから、宇宙船で取っ組み合いができるようにするにはどうしたらいいか。遠隔兵器を技術論的に壊すのは面倒くさいから、無線を遮断することを思いつきました。これは、工学ではなくあくまで映画を作るために発明したものです。15年たって久しぶりに『G-レコ』をやってもこの設定は使えました。そしてコンピューター技術がこの20年たってとんでもなく進歩しているにもかかわらず、『ガンダム』の世界が揺るぎないのは、「ミノフスキー粒子」があるおかげだと思ってます。

コンピューターもへったくれもないんだよね。いまだに、取っ組み合いができることで劇ができる。わかりやすく言うと、愛憎劇ができるんですね。「愛しあうためには手が届くところで抱き合わなくちゃいけないんだよ」という原則を絶対に揺るがすことができないという意味では、「ミノフスキー粒子」が改めて秀逸なアイデアだなと今回感動したんです。

また、工学は関係ないと言いつつ、実はこういう入り口から工学に入っていくような人たちが出てきたりする。僕は今回『G-レコ』を作る上でもう一つ思ったのは、現代の宇宙開発も含めて、地球上の資源が消費されている問題がどうなのかということを次の世代の人に考えてほしいと思ったことから『G-レコ』のような舞台を作ったんです。

エネルギーのことを考えた時にキャピタルタワー、つまり宇宙エレベーターがありました。あれを時刻表によって定時運送できるだけのシステムを考えた時にエネルギーの問題があって、あれだけ大きなものを動かすためのエネルギーを人工的なものやクリーンエネルギーでまかうのは不可能なので、そこは本当に考えました。

雷を使う、つまり地球そのものがバッテリーかもしれないという想定で、その電力をすくいあげる技術を確立しているだろう、そのくらいのレベルを考えないと『G-レコ』の中のキャピタルタワーは成立しないんだよということを、今から50歳若い子に考えてもらったら、その難題を突破する方法論を見つけてくれるんじゃないかと思ったんです。

地球そのものがバッテリーになるかもしれないということ、そして実際に電離層があるというのがどういうことなのかという、宇宙工学の部分でも我々が研究しなければならないことがたくさんあるんだよということを画にするために実は『G-レコ』を作りました。この話は、今日初めてするお話です。こんなことを言われて、『G-レコ』をロボットものとして見ていた人はびっくりしちゃうと思うのですが、この話はわかってほしい。

落合氏:14歳の時に何を見たかで人生決まってきてしまいますからね。僕は、『Zガンダム』をアニマックスの再放送で見た世代なんですね。それから、「どうやって人類を革新するか」ということに燃えようと思ってコンピューターをがりがりやり始めたんです。もしかしたら今の子たちは、14歳でクリーンエネルギーをやるかもしれないし、逆にテクノロジーをどうやって語るか、それは芸術でテクノロジーを語ってもいいし、テクノロジー自体を作ってもいいと思います。そして、その裏にある人間ドラマをどうやって生成するかということを、アニメを通じたメッセージとして受け取るというのは、14歳にとっては強い経験になるはずです。