藤原竜也主演の映画『探検隊の栄光』が10月16日から公開された。藤原が演じるのは落ち目の役者・杉崎正雄で、伝説の未確認生物"ヤーガ"を求めて秘境の地を探検するフェイクドキュメンタリー番組の「隊長」に起用される。1970~80年代にテレビ朝日で放送されていた『探検隊シリーズ』を彷ふつとさせる世界観の中で、何事にも真剣な杉崎とイマイチ緊張感がなくヤラセもオンパレードな撮影クルーとのやりとりが笑いを誘い、やがて彼らの気持ちが1つに重なっていく。
"新境地開拓ムービー"と銘打っているだけあって、最近の邦画では異質な作品。明るくほのぼのとしたトーンではあるが、かなり挑戦的なエッセンスが含まれている。脚本も手掛けた山本透監督はこの作品にどのような思いを込めたのか。藤原の秘話ほか、テレビや映画の今と昔、表現の規制や映画界の傾向など、"オトナの事情"盛りだくさんのインタビューとなった。
――ポスターのキャッチコピーでは"新境地開拓ムービー"とありますが、山本監督としても本作はそういう位置付けなのでしょうか。
そのコピーは僕が考えたわけじゃないんです(笑)。映画界にどっぷり浸かっている自分は批判しづらい立場なんですが、有名原作に偏ったり、恋愛ものがヒットしたらそれに集中したり、画一的になりがちな業界なので、この作品はそういうものから、ちょっとでも はみ出せたら良いなとは思っていますが。
――ヒット作の影響を受けやすいというのは、ここ最近の傾向なのでしょうか。
ここ10年……いえ、もっと前からかもしれません。この作品も原作(著:荒木源)がありますし……オリジナルでエンターテインメントをやるのはなかなか難しい。映画監督でもオリジナルを追求している方が何人かいらっしゃいますが、本当に少数ですね。
――採算の予測が立てやすいとか、その背景にはいろいろな事情がありそうですね。
僕はお金を集められる人ではないので分かりませんが、評価されている原作があれば安心感があるというか。それでお金が集めやすくなるという側面も確かにあると思います。
――映画化が実現するまでの道程は険しいとよく聞きます。今回はいかがでしたか。
やっぱりここにこぎつけるまでにはすごく時間がかかりました。企画が持ち上がったのが2~3年前。いちばん時間がかかったのは、脚本作りでした。原作はわりとビターエンドでシビアな話。今回の映画のようにあっけらかんとした雰囲気じゃなくて、死んでしまう人もいます。自分がやる以上はハッピーエンドな話にしたかったので、苦味が全くない展開にしていきました。コメディの方向性、キャラクター作りなど、脚本家の方々、プロデューサー陣と話し合いながら、ひとつひとつ時間をかけて作り上げて行きました。
――登場する撮影クルーが個性的です。ノリと勢いだけで進めるいい加減なプロデューサー(ユースケ・サンタマリア)、演出やスケジュール管理が大雑把なディレクター(小澤征悦)、無言で職人気質なカメラマン(田中要次)、UMAをこよなく愛するオタク音声・照明(川村陽介)、探検番組を冷ややかな目線で見ているAD(佐野ひなこ)。過去に実際にいたスタッフも参考になっていますか。
そうですね、自分が見てきたものは入っています。20年以上助監督をやってきたので、裏方の物語をやりたいという思いがありましたね。僕が「映画っていいな」と思う瞬間は、カチンコを打った瞬間。いい歳こいたおっちゃんたちが、傍から見たら遊んでいるようにしか見えないけど、そのシーンを通してどうやってお客さんを笑わせるのか、泣かせるのかを懸命になっている姿は面白いし、おかしいし、でも、とても美しいものです。そういうところを描く映画をいつかやりたいと思っていました。
――そのような思いが詰まった中で、主人公となる「熱血キャラのイメージに縛られて落ち目になった俳優」役はとても重要だったと思います。藤原さんが決め手となったのは?
藤原さんは早めの段階で名前が挙がっていて、スタッフは概ね賛成でした。適当な撮影クルーの中で引っ張っていく役どころなので、やっぱり相当弾けたパワーや熱意の持ち主じゃないといけません。最初そんな一面は見えませんが、最終的に暴走して覚醒して放出する。その落差が面白い映画になると思ったので、藤原さんで「あて書き」もしています。ゲリラの前での演説も、"藤原竜也ならではの長セリフ"が欲しかったから入れたシーンでした。意味のない長セリフを用意させていただいています(笑)。