この日「one more thing....」はなく、iPhone 6sとiPhone 6s Plusが最後の発表になった。キャッチコピーは「The only thing that’s changed is everything」。うまい日本語訳が思いつかなかったので、英語のままにしたが、皮肉が効いたAppleからの先制攻撃である。iPhone 6sシリーズはiPhone 6シリーズのデザインを受け継いでいる。だから、外観だけで「デザインがそのまんま」「何も変わっていない」と酷評されるのが容易に想像できる。でも、iPhone 6sシリーズでiPhoneは大きく変化しているのだ。
最大の変化は「3D Touch」である。ディスプレイが指の押す力を感知するようになり、従来のマルチタッチに加えて、画面をプレスする操作が可能になった。たとえば、メールのリストを押すとメールのプレビューがポップアップし、強く押すとメールが開く。ホーム画面のアプリのアイコンを押すと、頻繁に利用する機能のメニューが現れて、ワンタップでアクセスできる。これまで数回のタップが必要だったり、タップと戻るを繰り返していたようなステップが大幅に短縮される。Touch IDと同様、使い始めたら、それ以前には戻れなくなる便利な機能になりそうだ。
カメラも強化され、iPhone 4sからずっと800万画素だったメインカメラがついに1,200万画素にアップした。画像信号プロセッサも新しくなって、ノイズの少ない、自然で正確な色をとらえた写真を撮影できる。キーノートでは技術的な説明は短くまとめて、「とにかく素晴らしい写真が撮れる」と様々なシチュエーションで撮影したサンプルを見せた。
デザインは同じでも、筐体の素材に軽量で硬い7000シリーズのアルミニウムを採用、また二重イオン交換プロセスを使って製造した丈夫なガラスでディスプレを保護している。A9プロセッサは、A8に比べてCPU全体のパフォーマンスが最大70%、グラフィックス性能が最大90%向上した。第2世代のTouch IDセンサーを搭載し、指紋認証が高速かつ正確に処理される。4G LTE-Advancedをサポートし、Wi-Fiの通信速度は最大866Mbpsだ。
外観を除いて、世界的に大ヒットしたiPhone 6シリーズのすべてがアップグレードされた。Appleは体験の向上につながるアップグレードしか実行しないので、スペック上でこれだけ変化があるということは、大幅な体験の向上が期待できる。また販売方法についても、毎年最新のiPhoneにアップグレードできる「iPhone Upgrade Program」を米国のApple直営店で開始する。
毎年最新のiPhoneにアップグレードしたいユーザー向けに米国で「iPhone Upgrade Program」を開始、AppleCare+付きで32ドル/月から。24回の分割払い契約になるが、12回分を支払った段階でトレードインを用いて新しいiPhoneにアップグレードできる |
今年の9月イベントは、Appleらしい製品発表会だったと思う。今回も「サプライズがなかった」という感想が出てくると思うし、開催前のリークやスクープ報道がすごかったこともあって実際サプライズはなかった。だからといって、Appleが平凡な企業になってしまったのかというと、そんなことはない。Tim Cook氏は過去のキーノートで何度か「only Apple can do」という表現を使ってきた。筆者が聞き漏らした可能性もあるが、今回は使っていなかったと思う。しかし、iPad ProとApple Pencilで実現するスムーズなドローイング、A9X/A9プロセッサの高効率なパフォーマンス、TV市場を変えるApp Storeのエコシステム、3D Touchによる快適なスマートフォン操作など、言葉にせずとも存分に「Appleにしかできないこと」を示した。Appleの強みをしっかりとアピールできたイベントだった。