とんでもなくいいものを作れ!

――原田さんは、最近の若手ビジネスパーソンをどうご覧になっていますか?

今の若い人たちは非常によく勉強していますし、前向きですね。とくにスポーツや文化の面では、日本人の資質は高く、世界と互角に渡り合っていて素晴らしいと思いますが、ビジネス面では少しパワー不足かもしれません。

――出世欲が薄いとも言われますが……

いや、そうでもないでしょう。上昇志向はかなり強いように感じます。

――上昇志向はアピールしてよいものですか?

もちろんそうです。しかし、アピールしっぱなしで今の仕事を疎かにしてはダメ。それも「きちんとやる」程度ではなくて、目の前の仕事に全力で取り組み、期待以上の成果を上げていかなくては。満足のいく仕事だと思っても、もう一歩先を目指してほしいですね。

ベネッセにきてから社員に話したことのひとつが「いいものを作ろうと思うな、"とんでもなく"いいものを作れ」。こう言うと、「とんでもないってどういうことだ?」と想像力のスイッチが入るでしょう?

――自分の意見が"とんでもなく"いいものかどうか、判断できなくなりそうですが……

提案するのも怖くなるでしょう? きっと。とんでもなくいいものを目指すと、とんでもなく外れてしまうことが大いにありますから。でも、それを恐れずに仕事をしないといいものは生まれません。スティーブ・ジョブズだって失敗のほうが多いんですから。私だって偉そうなことを言っていますが、エンジニア時代なんて失敗だらけ。アメリカからきたトップエグゼクティブが見ている前で、新開発のマシンの電源コードがぱーっと派手に燃えたりね(笑)。でも、そういう失敗をすることで、だんだん成長していくものなんです。

――そんな失敗をしたときは、上司の方はどんな対応を?

正直、私は上司に頭を下げた記憶がないんです。幸いなことに、一生懸命やった結果の失敗については上司に一切怒られなかったばかりか、あとでフォローもしてくれました。私は生意気な若者だったから、よく上司と喧嘩をしましたし、怒って真っ昼間に帰ってしまったこともあります。そうすると、夜になって上司がウィスキーを持って「原田くん、悪かった」と謝りにきてくれたものです。人間関係には、本当に恵まれていましたね。

ダイバーシティ(多様性)環境に必要なもの

――最近は、人間関係が希薄な職場も多いようです。職場での人間関係をよくするにはどうしたらよいでしょう?

仕事以外でコミュニケーションを取るのは有効だと思います。例えば、家族ぐるみでバーベキューをすると、普段は「できない上司だ」と思っている人が、意外にいいパパだとか、仕事とは違う面が見えてきて、自分もちょっと優しくしようかな、と思ったりしますよね。職場での顔だけを見て、自分の物差しで相手の評価を決めてはいけないんです。

――グローバル企業で活躍された原田さんから見て、これからの日本企業に必要なものは?

英語教育も必要ですが、同時に外国人を含めて、多様な人材をよしとする文化を企業内に育てていくことが必要です。そのためにはまず、マネジメント側が変わらなければ。例えば、インターナショナルスクール出身の学生は、会社の中でややもすると異端児扱いされるような人材もいますよね?しかし、それは異端ではなく、“個性”。そういった個性を受け入れて、組織を作ることができなければ、本当のダイバーシティとは言えません。

――ダイバーシティというと、まず話題に上がるのが女性の社会進出です

内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」に携わったときに勉強したことですが、女性の活用も、少子化対策も、グローバル化も、すべてマネジメント側の意識改革が鍵を握っています。ベネッセでは女性が活躍しているし、子育て支援制度も充実しています。しかし、中小企業の場合、外国人や妊娠・子育て中の社員を雇用するのは、現実的にかなりの財務負担になるでしょう。政府はそういう企業を節税の対象にするとか、本気でサポートしないと、日本企業はもちろん、日本という国がなくなってしまいますよ。