エンジニアだった1人の青年が、営業職を経て、社会人13年目にグローバル企業の取締役に。40代になったばかりでアップルコンピュータジャパンに迎えられ、48歳でアップルコンピューターの代表取締役社長に。さらに55歳でまったく未経験の外食産業・日本マクドナルドのCEOとなり、現在はベネッセコーポレーションの代表取締役社長に――。そんな輝かしい経歴をもつ原田泳幸(えいこう)さんに、若手社員はどうキャリアを積むべきか、率直に聞いてみた。
原田泳幸 |
正しい仕事の学び方
――キャリアのスタートは、エンジニアだったのですね
そうなんです。それも、エンジニアを目指していたわけではなく、工学部を出て、就職口を探したら日本NCRという会社の研究開発部門に配属になったという流れです。社会人になったときは正直、自分にこの仕事が務まるか、不安でいっぱいでしたね。というのは、実は大学時代はバイトに明け暮れていたから。デパートの集金に旅館の番頭、病院の夜間受付、塾の講師……。社会勉強はたくさんしましたけれど、その代わりに学問はそっちのけでしたから、社会人になった途端に「これはまずい!」となったわけです。
――どうやってお仕事を学ばれたのですか?
「ここで勉強しないと人生終わりだ」と思ったので、とにかく一生懸命勉強しました。先輩に聞けば、何でも教えてくれるのですが、それは最初の1回だけ。もう一度質問すると「同じことを二度聞くな、真剣に仕事しろ!」と怒鳴られるんです。だから、職場のあった神奈川県で仕事が終わると、新宿の紀伊国屋まで行って専門書を買いあさって読みふけりましたね。現場の知識も早く吸収したかったので、上司に「難しい仕事をさせてください」と直談判をすると、「10年早い! 1年経ったら出直してこい!」と、また叱られて。でも、1年後の同じ日に「難しい仕事を」と言ったら、3カ月間必死に考え込むくらい、本当にキツい仕事を割り振ってもらえました。
――現場で、体当たりで学んでいったのですね
結果的には、それがよかったのだと思います。机上の知識はどんどん陳腐化しますから。社会人になってから、自分が大学時代に書いたレポートを見直したことがあるけれど、もう笑ってしまうほど幼稚でした(笑)。知識は持っているにこしたことはないけれど、知識を駆使することだけで勝負しようと考えてはいけないと思うのですよ。何かを考え抜き、創造した時に、引き出しがすっと開いて必要なものが出てくる。それが知識の正しい使い方じゃないかな。
誰にでもかならずポテンシャルはある
――キャリアを積む上で、どうしても周囲からの評価が気になります。マネジメント側はズバリ、若手社員に何を期待しているのでしょうか?
私の場合、もっとも重視するのは「これからどれだけ伸びるか」。つまりどれだけのポテンシャルがあるか、です。例えば、ある人材について、「この人は部長の仕事ができるな」という段階で部長にしても育たない。むしろ、「この人にはいま部長の力がないけれど、ポテンシャルがある」という人を引き上げます。とくに女性管理職の場合はそうですね。
――力不足でも、ポテンシャルがあればよい、と
未完成な段階でポジションを与えても、本人が努力をし、それを周りがサポートすれば、その人材はかならずポジションにふさわしい仕事ができるようになります。そういった意味では、ポテンシャルとは「自ら学ぶ力」とも言えますね。この力が大事なのは、新入社員だって私だって同じことです。私が学んで伸びなければ、会社は絶対に成長しませんから。今まで何を学び、どんな仕事をしてきたかなんて関係ないんです。
――ポテンシャルを蓄えるために必要なこととは何でしょう?
2つあります。1つは職場以外の人と交流することです。家と会社の往復では、刺激の受けようがないでしょう。残業が生活習慣になっているのもダメ。自分の時間をもち、人と交わって初めていい仕事ができるんです。私も50年来の趣味の音楽には本気で打ち込んでいるし、まったく違う業界の人との接点も大切にして、刺激を受けるようにしています。
もう1つはスポーツですね。私も毎朝運動しています。火曜と木曜は水泳、そのほかの日はジョギング。週2回はトレーナーの指導を受けてウェイトトレーニングをしています。これが、メチャクチャきついんですよ(笑)。
――キャリアアップは体力作りから! かなり意外でした
新しいことを身につけるには、基礎体力は絶対に必要です。それに、運動するとかえって疲れが取れますよ。ウェイトトレーニングで体中に乳酸がたまっても、翌日に走るとそれが全部ふっとんで楽になる。仕事で精神的に追いつめられているときも、走っていると「つまらないことで悩んでいるな」と発見したり、世の中の面倒なことを全部許せる余裕が出きたり。体を動かすことで、自分の中に芯ができます。