――確かに、直接描かれていなくてもキャラクター一人ひとりにちゃんとそれまでの時間があることが感じられます。
岡田:やっぱりTVシリーズが好きなんですよ、私たち。そこを、劇場作品ということでハードルを上げて挑戦的な感じになり過ぎたくはない。
田中:まあ、できない(笑)。ヘンに背伸びしすぎて自分で自分を追い込んで見失ってしまうより、何ができるかを肩肘張らずに模索している方が性に合っているという感じです。
岡田:かといって、TVシリーズと同じではないので、その中での劇場っぽさを考えていますね。
長井:変わっていないというか、無理に変えていないというか。
田中:よりストイックになっている感じはするんです。見方、感じ方的にも、どんどん"飛び道具"を排して、「めんま」のようなキャラクターもいないし、みんな黒髪だし。言い方が難しいですが、実写寄りなものをいかにアニメーションで出来るか、というところは変わらないと思います。
――よりリアルさを求める方向、ということですか?
長井:あれをリアルと言うのかは分かりませんが、まあ僕たちの思うリアルでアニメになったということです。『あの花』の時よりももう一段踏み込んだ作り方にしようと。クラスメイトたちも含めて、みんなで動いている感じが出せればいいなと思い、チャレンジしました。
田中:やっぱりアニメが好きなので。絵でやる面白みは無くしたくないんですよ。そこをヘンに突き詰めると実写でいいじゃないかという話なんですけど、僕らはあくまでアニメがやりたくて作っているので、そこはぜんぜんブレないですね。
理想の高校生活を描くことで追体験する
――『あの花』に続いて今回も秩父が舞台になっています。
長井:僕らの中で気分的に繋がっている所はあると思いますけど、絵的に(繋がっているの)は遊びで入れたほんの1、2カット程度です。
岡田:遊びがしたくて秩父にしたわけではなく、他の場所もみんなでいろいろ見て回ったんですけど、監督が「やっぱり秩父がいいな」と。
長井:良い印象があることももちろん理由ではありますけど、いろいろ考えた上でやっぱり秩父がいいんじゃないかという。
田中:最初から狙って秩父にしました、という話ではないんです。
岡田:監督が、いろいろ回ってロケハン代もかかっちゃってるし、今さら言えないんじゃないか……とか悩んでいたから、(田中さんと)二人で「いいよ、言いなよ!」という感じで(笑)。
長井:みんなありがとう(笑)。優しい現場でした。
――高校生たちを描いていると、ご自身の高校時代の体験や思い出がにじみ出るところもあるのでは?
岡田:私はないと思っていたんですけど、よくよく考えたら(主人公の)順がトイレに逃げ込むところがそうでした。なんかヤバい、ツライ、となった時の逃げ場がトイレという(笑)。華やかでない部分ではありますけど。
田中:僕はけっこう充実していたので、割とそういう気分で描いています……というのを公式見解にしておこうかな(笑)。
長井:僕の高校生活は地味だったので、それを反映させてしまうと鬱な作品にしかならないから、あまり出ていないです。正直なところ、自分の人生を上塗りして良い思い出で塗りつぶしてしまおうという感じに近いです。僕になかった理想の高校生活を今作ることによって追体験して、暗かった過去を塗りつぶして忘れてしまおうと。