アニメファンのみならず多くの人の心を捉え、大ヒットとなった『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』から間もなく2年。長井龍雪監督と、脚本の岡田麿里氏、キャラクターデザインの田中将賀氏が再び組んだ最新作『心が叫びたがってるんだ。』が9月19日に公開される。
今回も秩父を舞台に高校生が――と聞いて、よくあるヒット作の次回作への警戒感をつい覚えてしまったが、作り手側の意志は全くそうではなかった。2008年のTVアニメ『とらドラ!』から『あの花』を経て、初のオリジナル劇場作品に取り組む三人に、新作についての話をうかがった。
キャラクターたちに、もう一歩踏み込んで描く
――「『あの花』スタッフが贈る」というコピーで紹介されていますが、企画の段階からこの体制でスタートを?
長井:そうですね。三人で新しいものを、というお話をいただいて作らせていただきました。
岡田:完全に最初から三人そろっているのはこれが初めてですね。
長井:『あの花』の時は岡田さんが僕たちを呼んでくれたので。通ったら一緒にやろう、ということで。
――完全オリジナルの劇場作品となりますが、TVシリーズとの違いを感じる部分はありますか?
長井:現在進行形で感じているところです(笑)。僕の場合は時間の使い方ですね。だいたい20分で話が終わるように体内時計のリズムができていることを、今回改めて体感しました。
田中:それと、テレビシリーズは週に1本、1クールなら13本放送されていく中での、僕らの盛り上がりもあるし、視聴者の盛り上がりも感じられる部分があるんですけど、劇場作品はそれがなくて。テレビシリーズはどんどん作り込んでいけるというか、トライアンドエラーもできるという感覚があるんですけど、劇場版は一発勝負みたいな怖さを感じながら作っています。
――時間の使い方という視点でいうと、脚本は正に全く違うアプローチになりますよね。
岡田:そうですね。TVシリーズでも、13話分の構成ではなく1話の中の構成があるんですけど、それが普段慣れているのと違う尺感になった時に、印象値が変わっていくというか。今まで一緒にやってきたけど、初めて(一から劇場作品を)やることでその感じ方、捉え方が違ったように思います。逆に、テレビシリーズを一緒にやって来た私たちだからこそできる劇場作品というのを考えてみたい、という部分も少しあります。
――具体的にはどういったところでしょうか?
岡田:細かい部分ではありますが、ひとつはキャラクターへの迫り方でしょうか。個人的には劇場作品だと俯瞰で見るポジションが高いような気がしていたんです。テレビではもっと寄って、今この子が動いているというのを追っていくところを、(劇場作品では)少し上空から見ているような。その塩梅が、今回の作品だとテレビシリーズっぽく寄り気味になっている気がします。それは多分、私たち三人でやるからこそ試せたことなのかなと。ある意味、地味な作品ではありますが、そういう部分で妙に新しい感じがあるのではないかと思います。
長井:僕らの身に染み付いているTVシリーズのクセのようなものもありますが、話数がつながることで生まれるグルーヴ感のようなものに作り手側方も乗っていく、みたいな流れを1本の中でどう作っていくか、ということもそうですね。