Tim Cookも声明と、Safariの新機能

この原稿を準備している際、Appleはウェブサイトに「あなたのプライバシーに関するAppleの取り組みについて。Tim Cookからのメッセージ」という声明を発表した。

プライバシーに関する説明は日本語でも行われている

Appleのプライバシーに関するトップページに掲載されているこの文書には、これまで述べてきたAppleのプライバシーに関する考え方がまとめられている。

その中で、Appleは優れた製品を売ることがビジネスであり、iPhoneやiCloudに蓄積された個人情報を広告主に売ること、すなわちユーザー情報の「換金」はしない、と述べている。これはGoogleなどの、ユーザーのプロフィールを作って広告を最適化する仕組みに対する批判とも受け取れる。

その裏で、iOS 9のSafariに盛り込まれるとみられる新機能に、ウェブ広告業界や、ウェブ広告によって収益を上げているメディア等に小さなパニックが起き始めた。Business Insiderによると、iOS 9のSafariには何らかの形でユーザーが広告を目にしないようにする拡張機能が搭載されると指摘されており、モバイル広告のビジネスに対して大きな影響を与える可能性がある。

Appleも、アプリ向けあるいはiTunes Radio向けに「iAd」と呼ばれる広告ネットワークの仕組みを提供しているが、Tim Cook氏の声明では、やはりiAdでも、ユーザープロフィールは活用しないというプライバシーポリシーの適用を明文化しいる。

Appleの全体の収益に占めるiAdの金額は、およそ0.3%程度だ。しかしAppleはiAdの活用範囲を広めようとしている。新たに登場した「ニュース」アプリにも、iAdが採用され、美しい記事表示を損なわない広告表示を実現できるだろう。

この動きは、結果的にはユーザーのプライバシーを守れるかも知れないが、Appleデバイス上の他社による広告ビジネスを減衰させる施策と受け取ることもできる。

いずれにしても、Appleはプライバシーの高さを製品のウリにしようとしている。この考え方は、元NSA職員のエドワード・スノーデン氏も支持していると伝えられた。付加価値として、Androidよりも多少多くお金を払ってもよい、と考えるユーザーもいるかもしれない。Appleのビジネスは製品を販売することであり、プライバシーもそのビジネスを補強する材料として活用しようとしている。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura