ローカルとクラウドが統合された「Apple Music」
「One more thing」として発表された定額制音楽サービスの「Apple Music」は、日本での展開も確実視されており、すでに一定の利用者がいるところに定額制サービスを組み込むという導入ハードルの低さで期待度が高い。
しかし、こうした定額制サービスは、今まで持っていたCD経由や配信で購入したローカルの楽曲を扱えない。ローカルと定額制でプレイヤーが分離してしまうのも使い勝手が良くなかった。Apple Musicでは、それが統一的に扱われ、ローカルとクラウド(定額制)の境目がなくなる。リコメンドやSNS的なConnectよりも、この音楽の統合が最も重要なポイントだと思っている。リコメンドも、ローカルとクラウドの双方のデータを利用できることで精度は増すだろう。
このApple Musicをはじめ、Siriでも、端末上の個人情報を取得し、そのデータを元にレコメンドや予測を行う。今回のWWDCでは、2回にわたって「Appleは個人情報を取得しても匿名化し、ほかのAppleサービスとはリンクさせず、第三者に提供しない。すべてユーザーのコントロール下にある」と、プライバシーを尊重する姿勢を強調している。
これは、個人情報を活用して各種サービスを提供するGoogleを特に意識したものだろう。プライバシーを重視し、第三者提供をしないといった踏み込んだコメントだ。ビッグデータや広告などの収益を気にしなくてもいい、Appleのビジネスだからこそで、ビジネスの方向性の違いということだろう。適切に匿名化されている限り、第三者への提供や自社サービス内での活用は問題にならないが、Appleではそういったビジネスをしない、という宣言で、1つの大きなポイントである。
発表されたこと(もの)は、比較的多い基調講演だったが、それでも目新しさは薄く、「イノベーション」ではなく「改善」がテーマだったように感じる。Appleでは他社がすでに実現している機能でも「改善」して取り込み、不足している部分を埋めてエコシステムの完成を目指していく、といったところだろう。
今回のWWDCは、全体として新鮮味の薄い発表ではあったが、Appleらしさを感じさせる点がみられた。Appleが常に「革新」を求められる難しい立場であることを再確認させられた基調講演でもあった。