悪役、しかも自信や狂気に満ちた役柄の多い手塚が、「これほど丁寧な話し方で、非常にネガティブ」だなんて凄いギャップだ。ただ、よくよく考えてみると、『半沢直樹』の古里役や『HERO』の特捜部副部長役で、視聴者に強いイライラを覚えさせたのは、手塚の持つ1つの引き出しにすぎない。実際ドラマでは悪役が多いものの、ホームグラウンドである舞台では、善悪さまざまな役を演じてきた。
そもそも手塚は演劇界の有名人であり、看板俳優の重みを背負ってきた一人。デビュー作は蜷川幸雄と唐十郎の舞台であり、その後も『劇団健康』『ナイロン100℃』でKERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)とタッグを組んだほか、野田秀樹の『野田地図』、松尾スズキの『大人計画』、さらに『劇団☆新感線』に客演するなど実績を重ねてきた。
その一方で、これまでほとんど出演しなかったドラマ出演が、2010年ごろから徐々に増えている。舞台にこだわってきた手塚だからこそ見えるドラマとの違いは何か?
「舞台も映像もやり方としては変えていません。僕は基本的に自分の中に役を作ることができないし、やれるとも思っていなくて。それよりも、見る人の頭の中に構築するものが役だと思っています。特に舞台では、そのためにどう動くか、何を出せばいいのか、どんな変化を見せるのかを考えてきましたが、映像はそれをもう少し微妙にした感じ。『カメラにわかるくらいの変化でもうまくいくんだな』ということが、最近になってやっと分かってきました(笑)。意外だと思われるかもしれませんが、それくらいの違いだけなんですよ」
アラフィフになってから、ドラマに連続出演している理由も特にないという。そんな中で舞い込んだ『太鼓持ちの達人』のオファーは、主演ということ以上に「ハウツー本をドラマにする」という試みに心が動いたようだ。
「ハウツー本をドラマにするって、その発想が変ですよね。しかも原作の『正しいブスのホメ方』は、よくある自己啓発本のように自分や相手を変えるというものではなく、『いかに地雷を踏まないように生活するか』を学ぶための本。『ダメなのは悪いことではないし、ダメなままでもいいんだよ』という相手を受け入れるスタンスが、僕の中で『凄いな』と感じたんですよね。ドラマってどうしても成長物語を作ってしまうじゃないですか。でもこのドラマは、『ダメはダメでいいけど、ブスにブスって言っちゃダメだよ』というなかなか教えてもらえないことをやっているので、『これは新しいな』と(笑)」