一度見たら忘れない。いや、一生忘れられないくらいの存在感を放つ、俳優・手塚とおる。いまだ『半沢直樹』での強烈な小悪党や、『ルーズヴェルト・ゲーム』での名監督姿が記憶に新しい中、初主演ドラマ『太鼓持ちの達人~正しい××のほめ方~』のDVD&ブルーレイが発売された。

1983年の舞台デビューから32年。俳優生活の大半を舞台に捧げてきた手塚がなぜここにきてドラマ出演を増やしているのか? そして、知られざるかつての共演者との関係、AKB48と共演した『マジすか学園』で心がけたこととは……?

手塚とおる
1962年6月27日生まれ。B型。1983年、舞台『黒いチューリップ』(作・唐十郎/演出・蜷川幸雄)でデビュー。1986年より劇団健康に参加。1992年の解散まで全作品に出演。また、『半沢直樹』(2013年)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014年)など、多くの映画・ドラマにも出演。6月27日には出演映画『ラブ&ピース』が全国公開。

あえてここで結論を書いてしまうと、「やはり普通の俳優ではなかった」。ユニークすぎるコメントの数々を前後編の2回に渡って紹介していく。

まず前編は、初主演ドラマの話から。手塚が演じたスタローン大佐は、「ミリタリー服に身を包み、対人関係に悩む人にホメ言葉を授ける」という個性的な役。上から目線で指示を出したり、ときに奇声を発したりなど、"怪優"と呼ばれる手塚らしさであふれていた。放送が終わった今、手塚は何を感じているのか? やり切った充実感や役作りへのこだわりが聞けると思ったのだが、返ってきたのは予想を裏切る言葉だった。

「役作りは声も顔も全てやりましたよ。ただ僕が主演と言ったって、実際はプレーヤー(各話ゲスト)が主演のようなものですからね。実質的に脇役なので、ゲームキャラ的な感じの方がいいのかな、とは思っていましたけど」

何とも脱力感ただよう返事だったが、何より驚かされたのはこれに続く「ドラマそのものにも共感できていなかった」という言葉。主演がそんなことを言ってしまっていいのか?

「最初台本を読んだとき、何が何だか全くわからなかったんですよ。いろいろお話を聞いてみてもまだわからなくて。どうやら僕は、『自分はこういうタイプの人間だな』とかを意識したことが一度もないから、主旨がわからなかったみたいです。これまで会社勤めをしたことがないし、上司もいたことがない。短くて1日、長くても3カ月で終わる仕事ばかりなので、終わることが前提の関係作りしかしてこなかったんですよね。でもこのドラマを演じていて、『大半の人は会社に入って、集団で何かを作っているんだ』ということを今さらながら理解できました。それに『定年まで続くってことは切実だな……』とも思ったので、僕のキャラクターを劇画調にして笑ってもらえないと、つらくて自分をあてはめながら見られないんじゃないかと」

『太鼓持ちの達人~正しい××のほめ方~』(DVD-BOX4枚組 1万1,400円 税抜 / ブルーレイBOX4枚組 1万4,800円 税抜 発売元:テレビ東京 販売元:ポニーキャニオン)

手塚の強烈な演技を見ていると、芝居一筋で一般人の感覚がないことに納得してしまう。ただそれにしても、手塚の話し方は個性的だ。あまり目を合わせず、小さな声でボソボソ話しているのに、「1尋ねたら10返ってくる」くらい冗舌であり、その独自の雰囲気にどんどん引き込まれていった。

次に、12話放送した中でお気に入りのホメ言葉を尋ねると、手塚はまたも主演とは思えない言葉を口にした。

「(淡々と)全部いいと思いますよ。ただ、僕はホメるとか、ホメられるとか、全く無縁なんですよね。自然に太鼓持ちをしているのかもしれませんが、決して意識的ではないので、その感覚は全くわかりません。毎回スタローン大佐としてアドバイスしていましたが、実は自分の中に響いているフレーズはなくて……」

この言葉にわれわれ取材陣は爆笑。全話終わってからこんなことを言えてしまうのは、「役者だからそれでもできるよ」ということなのだろうか。さらに、手塚の新たなキャラが顔を出す。

「自分がホメられているという意識も全くありません。もし言われたとしても間に受けないし、鵜呑みにして自分を変化させることもしないし、評判が良くても悪くても自分の中での影響はないんですよね。僕は非常にネガティブな性格で、ふだんから『だいたいの人は僕には興味がない』と思っていますから(うつむきながら苦笑い)」