――今回の作品は遠野での撮影ということですが、いかがでしたか?
小泉監督「非常に良い場所に恵まれたと思います。今、あれだけのものをセットで組むとなると、大変なんですよ。黒澤さんの時代の美術を今の時代でやろうとしても絶対に無理です。技術的な問題もありますし、お金の問題もあります。たとえば、黒光りする床を作ろうとするとすごく大変。ベニヤか何かに塗料を塗っても、あんなキレイな木目なんか出ませんから」
――そういう意味でも最高のロケーションだったわけですね
小泉監督「あと、僕の映画だと、キャメラが2台、3台と入る空間がどうしても必要になるんですよ。それに望遠レンズを使うことも多いので、引き尻、つまり後ろに引ける場所がないとキャメラが入れないのですが、あの場所は本当に良い具合にポジションが取れた。昔の人が『セットはロケのように、ロケはセットのように』と言ったように、いかにロケでセットと同じように撮れるかが大事なんですよ。特に照明ですね。今回はすべてロケでの撮影だったので、セットとの兼ね合いはなかったのですが、ロケであってもセットのように撮れることがすごく重要になってきます」
――建物もそうですが、自然の風景も最高だったのではないでしょうか?
小泉監督「先ほどお話した歴史と同じように、自然も映画にとっては非常に大きな要素だと思います。歴史的な時代背景だけでなく、人は人生において自然からどのような影響を受けたのかを考えないといけない。特に日本人の場合、四季折々の変化からいろいろなものを感じ取りながら生きてきたわけですよ。自然によって人々の心も変わってくる。明るく生き生きとしたシーンの背景が枯れ木だったら、別の印象を持ってしまうかもしれません。このシーンであれば冬枯れ、このシーンであれば若葉。そんな風に、風景も映画の内容と密接に結びついているものだと思うので、その点でもベストなロケーションだったと思います」
――続いて、キャスティングについてお伺いしますが、秋谷役を役所広司さんに決めたのはいつ頃ですか?
小泉監督「脚本が書きあがるくらいの頃でした。誰に演じてもらったら、この秋谷という人物をきちんと捉えてくれるか? いろいろと考えた中で、役所さんにやってもらえればベストだろうなって、脚本を書きながら固まってきました」
――原作を読んでいるときには特に想定したりはしないのですか?
小泉監督「それはないですね。シナリオを書き始めてからだんだんと考えていく感じです」
――庄三郎役の岡田准一さんも同じような感じでしょうか?
小泉監督「そうですね。岡田さんの場合、『花よりもなほ』などを観ていて、とても素晴らしい役者さんだと思っていたので、一度やってみたいという思いがありました。岡田さん自身も僕の映画を観ていてくれていたみたいなんですけど、今回一緒にやれることになって、とてもうれしかったです」
――一緒にやってみていかがでしたか?
小泉監督「岡田さんは、本当に吸収が早いんですよ。格闘技をやっているという話は聞いていたのですが、侍の所作とはまったく違うので、撮影前に、岡田さんとプロデューサーと3人で居合いの道場に行ったんですよ。そして、稽古をしているのを見て、これは間違いない。本当の庄三郎に会えたと思いました。道場の先生も気に入っちゃって、ぜひ自分のところに入門してほしいって(笑)。それで居合いの型だけじゃなくて、次々と違うものを教えていく」
――居合いを習いに行ったはずなのに……
小泉監督「本当に筋が良くて、居合いをすぐマスターしちゃったので、新しいことを教えたくなったみたいですね。普通の人なら1カ月くらいかかることもすぐに吸収してしまう。驚くくらい早かったです」