Appleのメリット、IBMのメリット、市場へのインパクト

簡単に噛み砕けば、Appleにとってのメリットは「エンタープライズ領域でのセールスに弱いAppleが強力な販売パートナーを得た」ということで、IBMにとってのメリットは「エンドユーザー向けのモバイルデバイスを製品ラインナップに持たないIBMが自社のソリューションと組み合わせ可能な強力な販促ツールを得た」ということであり、企業ユーザーのメリットとしては「(従業員からの要望も高い) iPhone/iPadを業務ツールとして安心して導入できる」というわけだ。互いに直接競合せず、弱点を補って製品販売でタッグを組めるという、ある意味で理想の組み合わせとなっている。 以前までであれば、エンタープライズ向けのモバイルツールといえば「BlackBerry」が定番だった。バックエンドでの企業システムとの連携が比較的容易で通信の秘匿性も高く、さらに電子メールやスケジュール確認など基本作業に最適化された製品であり、多くの企業でBlackBerryを従業員に持たせていたりした。

企業向けモバイルツールといえばかつては「BlackBerry」だった

だが、iPhoneやAndroidといったライバル製品の技術革新が進み、企業システムとの連携に必要な機能を備え出すと、しだいに従業員からは「自分が普段から利用している(よりモダンな) iPhoneやAndroid端末を業務でも使いたい」といった要望が出始めるようになる。

「BYOD (Bring Your Own Device)」の形で自身が持つ携帯端末を業務システムにそのまま接続して利用する仕組みが話題となり始めたのもこのころだ。2012年にはトレンド転換で企業ユーザーにおけるBlackBerryとAndroid/iPhoneの比率が逆転したという報告も行われており、こうした状況に拍車がかかることになる。

今回、AppleとIBMが発表した施策は、こうしたトレンドをさらに後押しするものとなるだろう。ただし、ターゲットとなるのは多くの従業員を抱える大企業や組織、中堅以上クラスの企業が中心になるとみられ、大規模導入案件が増えることが予想される一方で、エンタープライズ市場を一気に席巻する性質のものでもないとも考えられる。いずれにせよ、かつて企業向けの有効な販売チャネルを持たなかったAppleにとって、IBMという協力者の出現は市場攻略の大きな礎となるはずだ。