結果と過程、どちらが大事か
――「J:COM杯3月のライオン 子ども将棋大会」のような大会では、練習での対局と違って負ければそこで終わりです。島九段がおっしゃる「負ける体験」を学ぶいい機会になりそうですね。
ええ。私が大会で親御さんにお願いしたいのは、きちんと褒めること。それも、勝った時に褒めるのではなく、努力した時に褒めてあげると、努力できる人間になるんですよ。勝った時や成功した時に褒めると、成功しなければいけないという強迫観念ができてしまいますから。勝ち負けよりもがんばったプロセスを褒めてあげることで、子どもには努力する喜びが生まれます。
――結果よりもプロセスを重視するということですね。
もちろん勝敗も重要です。私は結果とプロセス、どちらも同じくらい大事だと考えています。専門家の世界は、明日につながらないと意味がありません。あの時、こうすればよかったみたいなことは、プロでも思います。そこから反省し、練習法を変えたり、いろいろなアプローチを試みていくことが重要です。ただ、壁にぶつかることは誰にでもあります。スポーツでもそうなんですが、右肩上がりに強くなっているときもあれば、どうしても勝てなくなってしまうこともありますね。プラトー状態というのですが、これをどう打破していくかが大事になってきます。
物事が強くなるのは階段状だと言われていて、伸び悩む"踊り場"のときにがんばれるかどうかが大切です。人間に限界はあるかと聞かれることがあるのですが、僕は限界はないと思っています。プラトー状態があって、人が勝手に限界を決めてしまうのです。
将棋を覚えることで"待てる人間"になれる
――上達が停滞した状態でも我慢して努力できる能力を身につけさせられることは、教育的にも重要ですね。
相撲には"3年後の稽古"という言葉がありまして、今やっている稽古の成果は3年後に出てくるということなんですね。将棋も同じで、努力や勉強の蓄積が時間をかけて出てくるのです。もちろん、短期的な成果も重要ですし、悪ではありません。それがないとモチベーションも続きませんから。けれど、短期的な成果だけでは熟成する時間がない。例えば人間関係でも、1日で信頼は得ることはできない。長い時間をかけて得られるものというのは確かにあるのです。目先のことよりも、長期的に得られる報酬のために我慢して努力できるかが大事なんです。
――我慢できる力は、たとえ将棋をやめたとしても違う分野で役立ちそうですね。
何より、"待てる人間"になれるのは大きいと思いますよ。将棋は相手の手を待つつらさだったり、相手が思うように指してくれなかったりと、"待つ"ことが多い勝負ですからね。仕事でも会話でも、待つ時間は絶対に必要です。現代は便利な時代だから、待ちきれなくなることも多いのですが、その中で待てる人間というのは圧倒的に成功しやすいと思います。