ここ最近、将棋が盛り上がりを見せている。コンピュータとプロ棋士が真剣勝負を行った「将棋電王戦」をはじめ、今年3月には言わずと知れた大人気ゲーム『ポケットモンスター』と竜王戦がコラボレーションした「ポケモン竜王戦」も開催されるなど、従来の将棋の枠にとらわれないイベントも増えてきた。
そんな中、羽海野チカが描く大ヒット将棋漫画『3月のライオン』とコラボした将棋大会「J:COM杯3月のライオン 子ども将棋大会」が、7月20日の仙台会場を皮切りに全国7都市で開催される。8月23日には東京将棋会館にて、各地方都市大会を勝ち抜いた成績上位者による全国大会が行われる予定だ。
ゲームやインターネットなど、子どもたちにとって魅力的な遊びがいくらでもある現代において、なぜ将棋が再び注目されているのだろうか。今回は、「J:COM杯3月のライオン 子ども将棋大会」の審判長を務め、将棋の普及活動にも熱心に取り組む島朗九段に、あらためて将棋の魅力について聞いた。
将棋を通して"負ける体験"を学ばせたい
――最近、将棋を始める子どもや、将棋を始めさせる親が増えていると聞きます。「J:COM杯3月のライオン 子ども将棋大会」も前回から会場を2都市増やすなど、さらに盛り上がりを増してきています。島九段はこうした将棋ブームについてどうお考えでしょうか。
たしかに最近は、親御さんが将棋を知らなくてもお子さんに始めさせるケースが増えているように思います。ということはつまり、将棋に何か教育的なところでのプラスアルファを期待されているんじゃないかと思いますね。例えば礼儀やあいさつ、それから挫折に強くなることです。
――挫折に強くなるというと?
最近はどうしても子どもの数が少なくなったこともあって、傷つきたくない、傷つかせたくないという気持ちが大きくなってきているんですね。でも人生を歩いていく中で競争は避けられないし、正当な競争は人を成長させると私は考えています。将棋は決まったルールの中でベストを尽くして戦うわけですが、そこに負けはつきものです。羽生さんでさえ、10回に3回は負けてしまう。そういった正当な勝負の中で負ける体験ができるのは、教育における将棋の魅力の一つだと思います。
大人に近づくにつれて、負けることは増えていく。失恋とか受験とか、トラブルやアクシデントはどうやってもつきまとう。負けたら、現実を認めて、立ち上がるしかない。それは将棋の勝負に近いと思います。将棋はリセットボタンもないし、負けたら「負けました」と告げなくてはならない。そうやって負けて、挫折して、思うようにいかないことを体験してほしいですね。
――なるほど。勝負の世界という点では、スポーツにも似ているかもしれませんね。
そうですね。ただ、サッカーや野球やラグビーと違って、将棋は点数がつきません。だからこそ、なぜ勝てたのか、なぜ負けたのかを考える必要がある。私たちプロ棋士でもそうなのですが、出来のいい日と悪い日というのはあります。原因がはっきりした負けなのか、自分に自信がなくなったことで負けたのか、単なる不注意なのか――それぞれまったく違います。勝ちにしても、実力で勝てることもあれば、運で勝てることだってあります。
――将棋は完全に実力の世界かと思っていました。
アマチュアだと完全に実力の世界になることも多いですが、トッププロですと実力97%、運3%くらいだと思います。最後の最後は運の世界です。