我々が何気なく使っているスマートフォンは、知的財産の固まりだ。端末のデザインや機能、通信やデータ処理や同期に関わる手法、そしてソフトウエア、ユーザーインターフェイスなど、スマートフォンを構成するあらゆる要素に関わっている。その中でも、iPhoneは、スマートフォンの新しい形を規定してきた。

例えば、前面をタッチパネル対応のディスプレイのみで覆い、ボタンはそのディスプレイのすぐ下に1つだけ置く。そんなデザインパターンをAppleは2007年にiPhoneで提案した。当時のiPhoneに対する批判は大きかった。とりわけ操作方法については、キーがないケータイなんて使いにくい、と日本のみならず世界中からの批判を集めた。しかし今見れば、キーボードなどを搭載するスマートフォンはほぼ絶滅した。

2007年米国発売の初代iPhone

スマートフォンのデザインやスタンダードについては、AppleとSamsungだけの問題ではなく、関わるメーカー全体が、Appleが上げたトスをよく分析して踏襲し、追いつくという流れができあがってきていた。冒頭で紹介したSamsungの内部メールからもこうした認識が読み取れる。

裏を返せば、Appleはこう思っているのではないだろうか。Appleがスタンダードを決める役割で、リーダーとして最も販売台数を稼ぎ、利益を上げ、数字だけでなく賞賛される存在で在り続けたい。実際、利益の面ではAppleがスマートフォン市場から得られる収益の6割を占め、米国や日本などの先進国市場ではiPhoneが最も多くのシェアを獲得するスマートフォンであるなど、イメージ通りのリーダー的存在を維持している。

しかし世界市場ではSamsungがNokiaを抜いてトップのメーカーになり、先進国市場でも健闘している。そのスマートフォンがiPhoneを真似して作られ、Appleの利益を横取りしているように見えれば、それを取り返さなければならない。こうした考え方から、Samsungに対するAppleの法廷での戦いが続いている。