豊島七段の対コンピュータ戦略
序盤の△6二玉以降、終始激しい戦いで進んでいたように見える本局だが、一瞬だけ「長くなりそう」と言われた局面がある。
図の▲4八銀が落ち着いた一手で、いったん自陣を強化してから攻めようという手だ。対して△2一歩と打っていれば本当に長い勝負になったかもしれない。だが、YSSの選択は△4四角だった。これは攻め合いで勝負する手で、ゆっくりした展開にするチャンスを逃してしまった。
こちらは「電王手くん」の開発者の皆さん。今回▲4八銀の局面で電王手くんがしばらく停止したが、不調というわけでなく、安全対策のため人の影を感知すると自動的に停止するという。さすが日本のメーカーは配慮が行き届いている |
△4四角には▲7七桂と受けておく手もあったかもしれない。しかし豊島七段は▲1一竜と踏み込んで勝負に応じる。
「豊島さんはコンピュータの中盤の強さを警戒していました。少しぐらい優位に立っても中盤の難解な局面が続くと簡単に逆転されると。だから、コンピュータに勝つには、序盤の長い将棋にして、中盤に入る時点で大きなリードを奪ってしまうか、逆に中盤のない展開にして一気に終盤で勝負するのがいいと思っているようです。本局は意識して中盤のない展開を狙っているように見えますね」(遠山五段)
会心の勝利でプロが1勝を返す
互いに香を取り合ってからの展開は早かった。
図の△2四飛が悪手だ。敵陣に飛車を成り込んで攻める狙い自体は自然なのだが、▲1三竜から角を取られると駒損が大きい。そして期待の攻めも先手玉が意外に堅く、攻め切ることは難しかったのだ。駒損をしているうえに、攻めも期待できないのでは勝負どころがない。実際の指し手はさらに40手ほども続くのだが、プロの目から見るとすでに勝負はついていたのだ。
豊島七段、会心の勝利。戦績はプロ1勝、コンピュータ2勝となった。
本局は、YSSが意外なほどの脆さ見せた。指し手のランダム性が仇になったことが大きかったのだろうか。いや、それだけでは説明がつかない感じだ。
冒頭で挙げた「特別な力」を持った3人の棋士。彼らは時々、プロ棋士にも説明のつかないような鮮やかすぎる勝ち方をする。それもトップクラスの棋士を相手にである。本局の豊島七段の勝ち方にもそれと同じ匂いを感じた。この青年は紛れもなく将棋の神に愛された棋士だ。
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