アニメという媒体の優れた性能

富野監督:リアリティの消失といった実社会の問題をきちんと残そうとした場合、具体的に固有名詞を使うとカドが立ちますよね。ですがアニメの中で嘘八百に中であれば、簡単にできるわけです。そういう使い方をするにはとても有効だと、ガンダムという巨大ロボットもので教えてもらいました。このやり方を、ハウツー論として僕は身につけることができていると考えます。『Gのレコンギスタ』ではその方法論を講じてみようと思います……ただし! 人間そこまで自惚れちゃいません! 70過ぎたヤツが10歳15歳が感動するような作品が作れるわきゃあない!(場内笑)

富野監督:もう若い奴には負けないなんて口が裂けても言いません。が、今話したアニメというものの性能を利用して、100年残るものを開発しています。これくらい(指先で5ミリ程度)うまくいってるかな?(場内笑) それが僕にとっての未来です。

そしてもう一人のゲスト、セドリック氏に話が及ぶ。

富野監督:未来は僕が成すべきものではなくて子や孫のための、僕のじゃなくてフランス人の子や孫でもいいんです。……ところであなたはなぜこんな未来のないアニメを仕事にしようと思ったんですか?

セドリック氏は16歳からアニメの仕事を始めたという。当時は会社とかビジネスというものを何も知らず、ただただアニメという価値があり、インスピレーションを与えてくれるものをフランス人に知ってもらいたかったのだと語る。

セドリック氏:バカだったんです(笑)。でもいろんな人たちに声をかけて、助けられて形にしていったんです。フランスのアニメは『グレンダイザー』からで、『鉄腕アトム』の日本から15~16年遅れて始まった。普及は今でも遅れていますが、アニメの重要さ、意義は日本と変わらないと思っています。

富野監督:アニメの意義というのは? もう少し具体的に言うと?

セドリック氏:富野さんはアニメの未来に悲観的な見方でありましたが、私どもフランス人の特徴は悲観的であることです。あらゆることを悲観的に見て、そして文句を言うというところが似てるんじゃないかと思います。しかし私はそういうフランスという国、社会に育ったにも関わらず、希望を持ち続けた。それはガンダム、アニメに少年時代に出会ったからです。ヒーロー像、そして開拓精神、諦めないこと、これらの多くを私はアニメから頂戴したのではないか。富野監督も加藤さんも私も、いろいろなアイデアを持っている。それを進めよう、普及させようというエネルギーはアニメからきているのではないでしょうか?

セドリック氏はアニメ文化がまだ成熟していない、アニメは10歳以下が見るものというフランス国内の風潮とずっと戦い続けてきた人物だ。それだけに、アニメが見せてくれる前へ進もうとする心、諦めないしぶとさを信じる気持ちが日本人よりも強いのかもしれない。またセドリック氏はこうも語る。

セドリック氏:日本のアニメはお姫様やコメディだけでなく、感動する物語があった。物語の表現には実写や小説などいろいろな媒体があるが、アニメを使うと全く違ったものになる。その素晴らしさを伝えたい。

それに対し、富野監督は問題点を指摘する。