――作品の反響についてはいかがでしたか。
思いのほか自分と同じようなモノづくりをしている人たちやミュージシャンの人たちが「面白い」って言ってくれたのは嬉しかったです。映画の公開中、何回か客に紛れて劇場で見たんですけど、まさに十何年か前の僕のような、バカなことが大好きな大学生たちがゲラゲラ笑って「や~べ超面白かった」って言いながら帰って行ったんです。そいつらの背中を見ながら「おまえらのために作ったんだよ」って心の中で思いましたね(笑)。
――今回、佐久間さんは脚本も書かれてますが、ストーリー終盤で渡辺いっけいさん演じる松井刑事が言う「未来はアドリブで変えられる」というセリフがとても印象的で、感動すら覚えました。
あのシーンの脚本を書いている時は頭の中でけっこうグルグルしてましたね。もちろん基本は面白いものにしよう、笑えるものにしよう、劇団ひとりの面白さをどう引き出そう、ということを考えてましたが、映画的なカタルシスは作り出したかったんです。どこかでテーマに落とし込まないと一本スジが通らないだろうし、やってること自体がドキュメントというか珍しい企画なんだから、それをうまくセリフとして表現したいなと。で、ふとした時に散歩をしていたらそのセリフを思いつき、後半はそれを軸にすべて書き換えました。見てる人だけでなく、劇団ひとりもそれでグッと来るだろうから(笑)、最後までそのテンションで行けるようにと。
――では、現時点ですべてやり切った感はありますか?
一つのテーマとして「劇団ひとりがB級映画のテーマパークに迷い込んだ」というイメージが僕の中にあったんです。最初、温泉エロものから始まって、『クローズ』みたいな世界観のギャングもの、アメリカB級セックスもの、スパイものと流れて最後にゾンビもので終わる、みたいな(笑)。SFとか学園ものとかの要素は今回、入れられなかったですが、もし機会があればやっていきたいです。ただ、劇場版第2弾に関しては、劇団ひとりがこれ以上輝くテーマと追い込み方がしっかり思いついたらやりたいですね。同じシステムでやっても色あせちゃうだけなので。逆を言えば、そこが何か一つでも見つかったらやるかもしれません。それがテーマなのか、共演させたら面白くなる「人」なのか分かりませんが。
――今回のBlu-rayとDVDのリリースに際し、ぜひここを見て欲しいという部分を改めて教えて下さい。
1回目はまず単純に「劇団ひとりがすごい」と思いながら楽しんでもらいたいですね。で、2回目は信太郎役の岩井秀人に注目して欲しいです。彼は劇団ひとりのアドリブに全部ついて行きながら、たぶん頭の中で「ここで(話の)スジを戻さないと大変なことになるな」と考えながら演じているんですよ。岩井秀人とマキタスポーツが劇団ひとりとやり合うシーンがあるんですが、2人はそこでアイコンタクトをしてると思います(笑)。彼に注意して見るときっと倍楽しいと思いますね。
――他に見て欲しいポイントはありますか。
役者がそうなら技術もテンパってるんですよ。なので3回目はスタッフの心情を想像しながら見て欲しいです。撮影中、カメラマンもアドリブで「佐久間さん、ここズームします」とか言うんですよ、役者が何を言うのかまったく分からないのに(笑)。ですから「この画(え)よく撮ったな」とあれこれ想像しながら見るのも楽しいと思います。あと、アドリブで爆破ボタンを押す人の緊張感もぜひ想像して欲しい(笑)。小さい石で「ここを越えると危ない」という目印があるんですけど、それを見てずっと待ってるんですから。
――そう考えると、スタッフ、キャスト含めてものすごい緊張感だったでしょうね。
結局、すべてが一発本番だからみんなピリピリしてますし、ホントに有り得ない出来事ばっかりなんですよ。普通の映画ならカットしてしまうシーンもそのまま使ってますし。たとえば、アジトに乗り込むシーンでは岩井さんが乗ってるトラックがけっこう早く(画面に)入ってきちゃってるんですよね。本来もっとギリギリで入らなければいけなかったんだけど、担当したADが「間に合わなかったら殺される」と思ったらしくて(笑)。その後、カメラはトラックを映さないよう映さないように撮ってます(笑)。
――本作における佐久間さんの監督としての役割はどんなものだったのですか。
ざっくり言うと、僕の仕事は現場に入る前にだいたい終わってます(笑)。脚本を書いた後、10日から二週間ほどかけて出演者のみなさんを個別に呼んでダミーの「劇団ひとり」を立てたリハーサルを行うんですよ。その時、ダミーの人に「急に殴ってみて」「銃を奪ってみて」とかあれこれ指示しながら対策を練っていくんです。面白くするためのディスカッションも並行してやりながら。そうやって現場に臨むから、当日は中継車の中で10台くらいあるカメラを見ながら指示をする作業に集中してました。ですから便宜的に「監督」と言っているだけで、バラエティー番組の総合演出に近いことを腹括ってやった、という感じです(笑)。