「3つ」の大きな進化
そのようにして、ThinkPad X240は大きな進化を遂げた。その具体的な進化をいくつかの特徴から追ってみたい。
ひとつめは、Big Bottomデザインの採用である。Big Bottomデザインは、8つのネジを外すだけで、ボトムカバーが丸ごと取り外せるという仕組み。
これは、保守性を高めるだけでなく、薄型、軽量化、そしてデザイン性を実現するための仕掛けともなっている。
「従来のように裏面の一部を取り外すカバーの場合には、カバー内部に段差が必要だが、Big Bottomデザインでは、全体を外すために段差の層が不要になり、薄型化に貢献することになる。さらに、メモリやHDDの増設などの作業も行いやすくなる。また、裏面のデザインもパーティングラインを無くすことができるなど、持ち運びの際にも、すっきりとしたクリーンボトムデザインを実現できた」というわけだ。また、この形状は強度も出しやすく、加工もしやすいといったメリットもある。
その一方で、安全性にも配慮している。
ボトムカバーが外れたことをマザーボードで検知可能なアンチダンバーデザインを採用。取り外す時には、内蔵バッテリが自動的にすべての電源を切るといった機能や、ボトムカバーを外していなければ前回の起動からは変更がないと見なし、初期化などの作業をスキップした高速起動を行うといった仕掛けも用意している。
「大和研究所で開発したシステム制御ASICのThink Engineによって、ボトムカバーを取り外した際の電源制御を行えるようにしている。内蔵バッテリとしたために、メモリ交換などの際にも安心して作業ができるような制御技術としても進化した」という。
またネジは緩めても、ボトムカバー側についたままとなり、ネジが外れて無くならないような仕掛けにもなっている。
「実はThinkPadで使えるネジの数は基本的に8個まで。サービス部門との話し合いでは、当初はカバーで7個、ハードディスク固定用に1個の合計8個が目標だったが、結果としてカバーで8個、ハードディスク1個という構成になった」というが、それでも裏面はすっきりしたものとなっている。
そして、ネジそのものも見直している。「ネジは、段付きスクリューと呼ぶ形状で、ボトムカバーとキーボードカバーとの間に0.1mm程度の隙間を持たせている。これによって、PCの端を持って無理な力がかかり、上と下とカバーがズレても、きょう体の歪みを吸収できるようになっている」(レノボ・ジャパン 機構設計の内野顕範氏) という。
最大95Whの内蔵バッテリ
2つめは、デュアルバッテリフォームファクタの採用だ。
ThinkPad X240では、3セルの内蔵バッテリを手前方向に配置できるほか、後方部には着脱可能な6セルの円筒バッテリを搭載し、Lenovo Power Bridge Technologyにより、電源オン時もバッテリ交換ができるバッテリホットスワップ機能を実現。内蔵バッテリと同じ3セル構造の新開発薄型バッテリを用意し、これらの組み合わせによって、利用者の用途にあわせて、薄型優先、バッテリライフ優先、コスト優先といった形で選択できるようにしている。
「基板形状を横長化し、手前と後方との両方にバッテリを配置し、最大95Whを実現した。これによって、JEITA1.0の計測では最大30時間のバッテリ寿命を実現している」とする。後方の3セルバッテリだけの最軽量状態では7~8時間の駆動が可能だ。
また、バッテリの脱着防止とワンハンド操作が可能な新たなバッテリラッチ機構を用意した。ポップアップ機構によって片手での安全な取り外しができるという。
基板の小型も図られた。抵抗やコンデンサなど、ひとつひとつのパーツをはじめ、回路の全面的な見直しにより、コストや機能に影響がない範囲で搭載パーツの小型化を推進。26%の小型化と約4分の3のサイズ、37%減の軽量化を達成。横長の基板としたことで、バッテリの新たな配置にも対応している。
「小さくするとコストが飛躍的にあがってしまうものもある。そこで、性能や価格、大きさのバランスをみながら、ひとつひとつの部品を見直していった」(塚本氏) という。ネットワークカードには、M.2を採用。業界に先駆けた取り組みも基板の小型化に寄与している。
そして、冷却ファンは、「第7世代フクロウファン」へと進化。新デザインのブレードによって、耳障りな音を約80%減少させた。ヒートパイプは、薄型化しつつ、冷却性能の向上を実現したという。
ネジとコストは少なく、耐衝撃性能は高く
3つめは、ハードディスクを保護するAnti-Shock Floating(ASF) の採用だ。
ThinkPadでは長年に渡り、アクティブプロテクションシステムという方法を用いてハードディスクを保護してきた。これは業界からも高い評価を得ていたが、そのノウハウを活用しながら、薄型化と衝撃低減を両立させることに成功したという。
レノボ・ジャパン 機構設計の内野顕範氏は、「プラスチックとゴムの中間程度の固さを持つエラストマーがハードディスクを支え、これをブラケットの穴に差し込むことでハードディスクを浮かせる構造としているのが特徴となる。
エラストマーの適度な固さは、衝撃の強さによって動き方を変えて、衝撃を吸収することになる。エラストマーの材質選定にもかなり苦労したが、あるサプライヤーから調達できる素材にたどり着いた。これにより、厚みを1.6mm薄くしながら、ハードディスクへの耐衝撃性能を43%も向上させることができた。これまでの仕組みでは、高い耐衝撃基準をギリギリでクリアすることもあったが、新たな仕組みではすべての製品において、余裕を持って、この数字をクリア。43%も高いGに対しても対応できる」という。
つまり、この指数は、ASFの採用によって、これまでの製品に比べて、43%高い位置から落としても大丈夫ということを示すものだといえる。
また、新たな仕組みは、アセンブリでも工数を減らすことができ、「従来は4つのネジで止めていたが、ネジはひとつも使っていない。手作業だけで実装できる。エラストマーの素材コストは高いものだが、この仕組みに関わる全体のコストは、従来製品よりも改善が図られている」という。